[コメント] いつか読書する日(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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女は牛乳を届け続けることで己の激情を飼い慣らした。男はそれを流しに捨て続けることで、女の想いを受け入れてきた。あまりにも幼稚な誤解によって離れ離れになった恋人同士が疎通し続けてきた30年の日常は、決して揺るがない。主を失い雑草の生い茂る高梨家に平然と牛乳を配達する美奈子の姿は、彼女の積年の想いが心の奥底で硬く結晶化して、容易には崩れなくなってしまっているという、ある意味での絶望を現しているんじゃないだろうか。離れていた時間が長すぎたために、ついにセックスをしても、相手が死んでも、女は牛乳を届け続ける──「そばにいない彼に牛乳を届けること」が、その行為の動機を超越して彼女の人生そのものになってしまっていたから──なんて解釈すると、とても恐い映画。ほとんどスリラーだ。
この監督の作品を初めて観たのですが、むちゃくちゃ面白い映画をつくる人と思う。映画の語り部を主人公たちから適度な距離を置いた小説家に設定して、過度の感情移入を避けている。これによって、私たちはひとつ間違えればドロドロの昼メロになってしまいそうな物語を客観視できる。唐突な高梨の死も、終始暗い画面に突然現れた黄色いカッパ姿の子供の色鮮やかさと「なんで……?」という彼のセリフひとつで処理してしまう巧さ。
私は登場人物に生活感のある映画が好きなのだが、この映画はその生活感の中に「時間」と「感情」を完璧に封じ込めて見せた。中年の独身女を描いて近年にない傑作と思う。ホントに面白かった。
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