[コメント] リンダ リンダ リンダ(2005/日)
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中学生時代にビジュアル系バンド全盛期を迎え、その後はハイスタのようなメロコアを聴いていた私にとって、ブルーハーツはサザンやピンクレディーと変わらない、かつて流行った歌謡曲である。これは私の個人的な感想ではあるものの、同年代で賛成してくれる人は多いだろうし、私よりほんの少し若い本作の高校生たちにとっても似たようなものだろう。かつて狂騒を起こした日本ロック史上のキラ星だということは知っているが、私にとってのブルーハーツはCMソングの定番で、カラオケで歌えばとりあえず場が盛り上がる耳触りの良い和やかなバンドという印象である。歌詞は分かりやすいながらも攻撃的で、それでいてナイーブで、他のバンドに真似できるものではないと感じてはいた。しかし高校当時、その歌詞を自意識の代弁として受け止める者は少なくとも私の周りにはいなかった。むしろ、ゆずやミスチルに共感するのが大勢であったし、少し背伸びした音楽通は洋楽の名盤を聴いていた。
本作を見て驚いたのは、以上のようなブルーハーツに対するある意味落ち着いてしまった距離感がそのまま描かれていることである。歌に涙を流すのは留学生のペ・ドゥナくらいのもので、他のメンバーにとってブルーハーツは即席で演奏出来てライブでも間違いなく盛り上がる無難な選択肢でしかなかった。彼女らの目論見どおりライブでは大盛り上がりだが、あの場にいた観客とってあのライブは、学園祭の一コマを彩るBGMでしかないのだろう。そもそも、正当な手続きを経て学校行事で時間を用意されて披露されるブルーハーツの詩から、本来の強いメッセージが伝わるものだろうか?ブルーハーツ世代ではない私にはよく分からないが、彼女たちが奏でる音楽はブルーハーツが本来持っていた魅力とはまた違うのものなのではないかと感じる。ブルーハーツ世代の方にとって本作で演奏される明るいブルーハーツは歯がゆくて我慢ならないものかもしれないが、実際私たちにとってのブルーハーツはその程度のものである。「ブルーハーツ」という現象の変質を暖かいタッチながらも冷徹に描ききった山下敦弘監督は、極めて正直でロックな人だと思う。もし本作が、ブルーハーツを通して学校教育制度への反骨に目覚めた女子高生たちが、学園祭で大波乱を巻き起こすようなストーリーであったなら、それこそ教科書的なロック魂に迎合した、面白みのない時代遅れの作品として終わっていただろう。本作はある意味で、ブルーハーツの一時代に引導を渡してしまったと言えば言い過ぎだろうか?
最後に書いておくが、私は歌謡曲としてのブルーハーツが大好きで、カラオケでも必ず一曲二曲は歌う。それは噛むほど味の出る歌詞の良さもさることながら、キャッチーなメロディにみんなで盛り上がれる一体感が心地良いからである。本作の彼女たちもバンドを楽しんでいた。尖がっていなくてもドブネズミみたいでなくても、楽しんで演奏できれば素晴らしいことではないのか?ブルーハーツのメンバーもそう言うと思うのだが、どうだろうか?
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