[コメント] サマータイムマシンブルース(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「やる気のない大学生」というのは、現在の日本において指折りのヒマな生き物だ。受験は終わり、就活はまだ先、学校さえ来ていれば単位は何とかなる、あとはバイトをどれくらいやるかって程度の毎日。時間は捨てるほどあり、体力は困るほどある。ダブりさえしなければ、楽しいことを探して日々を過ごしても誰にも怒られない。緩やかで終わりのない祭。そんな彼らが夏休みなんて迎えれば、そのヒマさは最高潮に達する。
つまり彼らにとって時間なんて何の価値もないんだ。いや、本当は他の人と同様に重い価値があるんだけど、それを無視して暮らすことが許されているんだ。そんな彼らが「時間を統べる力」を得てしまうことに、この物語の面白さがある。
彼らにとって大事なのは過去の歴史や輝かしい未来ではない。事実彼らは未来に巨大な光は見ていない(だから行きたがらない)。大事なのは今であり、今もっとも重要なのはエアコンのスイッチが入らないことなんだ。
この物語は時間を無駄に有する彼らだからこそ起こり得た物語であり、面白さを追求して生きる彼らだからこそこじれ得た物語なんだろう。その展開がややこしく捻れてテンションが上がっていくと同時に、緩やかで無為な夏休みの匂いも一層強まっていく。彼らの生活同様、問題がどこまで行ってもそこに切実さはない。だけど無駄に過ごした時間を持つということは、実はそう無駄なことでもないんだ。そんな暖かさと緩さを併せ持つ視点が、大変に居心地がよく楽しい。
もちろんその楽しさには、よく練り込まれた脚本が多分に功を奏している。実は観賞後に特典を見るまでこれが舞台劇だって知らなかったんだけど、確かに言われてみればさもありなんの、とても巧妙に研ぎ澄まされた脚本だったと思う。何より登場人物や小道具に無駄がない。これは舞台という、映画に比べて空間も予算も人数も限定された表現において、その与えられたものを如何に効率的に笑いに変えるかを突き詰めた結果なんだろう。舞台においては「持っている物を全部使った」というこの脚本が、映画においては「無駄がなくスッキリした」という印象を与えているのが面白い。SF研の3バカにそれぞれキャラが立っているのなんて、その何よりの賜物だろう。
本広克行という商業的ビッグネームが小さく小さく作った良作。そこには劇団「ヨーロッパ企画」を世に広めたいという思いもあったのかも知れない。だからこそ、全てが小さくも綺麗な一つの玉にまとめ上げられているこのような作品は大いに評価したいと思う。とても楽しかった。
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