コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 生きる(1952/日)

実は淡々と流れていく日常の部分こそが、この映画の主題に他ならない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 男の生き様をこれほど見事に描ききった作品は少ない。似たようなパターンの作品に『マイ・ライフ』があり、これと似たような構成がされているが、やはり監督及び役者の質の違いか、こちらの方がしっくりくるし、何より主題そのものが違うため、同列に見ることはできないかな?

 志村喬は淡々とした表情で、それらをあくまで内面の葛藤に留め、表情には現さないでいる。ただ行動だけが変わっていく。その行為に周りの人間が戸惑っている姿との対比が面白い。実際に何をして良いのか分からなくなったとき、今までしたこともなかった遊びを始めたとき、そして自分のなすべき事をはっきり認識したとき、実は何をしていても淡々とした表情を崩していない。志村喬は単に上手いだけでなく、こういう視聴者に分かりづらい、難しい役をきっちり演じられるところが凄い。

 公園のブランコに乗って「いのち みじかし こいせよ おとめ 」とぽつぽつと歌うところはベストショット。漫画などでもよく引用されている(大概は単なるポーズだけど)。

 そして葬式のシーンから再び日常へ。この揺れ返しが良い。本作品は元々トルストイの「イワン・イリッチの死」にインスパイアされて作られたと言うだけあって、まさしくそのシーンこそが大切。結局渡辺のしてきたことは何を残したのか。それは完全なる決着は付いていない。視聴者の主観に任せられている。これを観て、あなたはどう思う?黒澤明監督のメッセージがここにはある。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (12 人)パグのしっぽ[*] れーじ[*] 鵜 白 舞[*] mimiうさぎ[*] [*] ハム[*] いくけん[*] ペンクロフ[*] chokobo[*] カフカのすあま[*] sawa:38[*] アルシュ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。