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[コメント] カミュなんて知らない(2005/日)

オタクな引用、参照のオンパレード。の割には、不思議な位「衒い」というものをあまり感じさせない。無邪気に、軽快に、映画のあれこれに言及する傍らで、見えない不穏な空気が常にそこには流れている。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







衒いを感じさせない理由の一つは、大いなるメタ的な仕掛けの表層として機能しているからだろう。その表層を突き破ってラストで噴出するのは、映画という「虚構」が不意に産み落とす、得体の知れないリアリティ。軽快な映画談義と借り物の知識の構築に付き合っている観客は、そのラストにおいて何が「虚」で何が「実」なのか、その眩暈にも似た混乱に否応なしに巻き込まれざるを得なくなる。その狙いの周到さと的確さに、さすがは柳町監督、と思わず唸ってしまった。一昔前のATG調な臭いを幾分感じさせながらも、(もはやベテランの域にある人に対して失礼承知で言うなら)まったくもってやることが堂に入っている。

非常に精巧に作り上げられた虚構が現実と綯い交ぜで氾濫する今日を背景に置いて、「やってみなければ分からない」と言って即物的な行動を取る若者たち。周囲はおろか、おそらく自らの想像力すら信じていないのかもしれない。そのように少なくとも表向きは、そんな不信感や危うさみたいなものが、物語の土台に置かれているように思える。

しかし一方で、そんな言葉だけでは解消しきれない、名状し難い「しこり」のようなものも残る。おそらくそれは、「現代性」という言い訳じみた言葉だけでは説明のつかない、もっと人間性の奥底に存在する「陥穽」のようなもの。「太陽が眩しいから殺した」と言うカミュは、その感覚を「不条理」として表し、この映画はそれを(心理的な意味合いを含めた)可視の世界に存在する見えない「落とし穴」のようなものとして描いている、そんな気がした。

ともあれ、映画への言及を追って観ているだけでも(少なくとも自分には)十分面白い。それに加えてテーマの現代性の面白さもある。しかし何より、個人的には一つの映画の作りの面白さに感心しきりだった。久々にいろんな意味で面白いと思える映画、でした。[4.5点]

(評価:★4)

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