[コメント] 隠された記憶(2005/仏=オーストリア=独=伊)
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もし自分がその立場に置かれ、「思い当たるフシはありませんか?」と問われたとする。 もうその悪意が得体の知れないほど、不快であればあるほど、必至になって自らの存在を省みるだろう。しかも「負」の部分のみを。これはもう、どれだけ人が醜い存在であるのかを思い知らされるためにある映画、ではないだろうか。ハネケ監督のインタビューを観ていると、まるで人が生きてること自体を罪悪としてみなしてるようにさえ思える。
おそらく監督は、この映画を観た時に否応なしに覚える不快感や居心地の悪さ、それらが一体何を意味するのか、それに気付いて欲しいと思っているのではないだろうか。そのための一つの手段として、視点の仕掛け。じっと観ているものが実は劇中のビデオだったり、あまりのカメラの動きのなさにその逆パターンを錯覚したり、そんな焦点の揺らぎ、戸惑いが随所に仕掛けられている。もう仕舞いには自らが観ている間にも、自らも何かに観られているのではないか、という錯覚。少なくとも自分はそんな居心地の悪さを覚えた。
まあしかし、明確な答えを許さない放置プレイまがいの作風は、過去の作品から一貫している。が、しかし、ここにきてその監督の視線の質が、少しずつ変わってきているように思えた。『ファニーゲーム』のあからさまな悪意と挑発が、『ピアニスト』においてはその挑発が物語の体裁に周到に編みこまれるようになり、そして本作においてその視線は、その存在を見ることすらできない覗きカメラに託すことによって、もっと無機質なもの、意図を放棄さえしているようなモノへと変貌を遂げたような気がする。「悪意」や「挑発」は、意図が分からなくてもその存在が見えるうちはまだいいのだ。最もタチが悪いのは、それすら認識することを許されない状況だろう。[4.5点]
追記:一応告白しとくと、ラストは未だによく分かりません。というか、あれこれ考えること自体が、もう既に術中にハマっている気がするので、あえて放置します・・・。
(2006/10/25)
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