[コメント] シェルブールの雨傘(1964/仏)
汽笛。アイリスインで始まる第一カット。ルグランの旋律。高い位置に据えられたカメラがティルトダウンして煉瓦道を垂直に見下ろす。雨が降る。色とりどりの雨傘、合羽、自転車が交錯する。横一列に並んだ六つの雨傘が下りてきて“Les Parapluies de Cherbourg”の文字と重なる。私は感涙を抑えられない。
平熱のミュージカル。プロダクション・ナンバーはない。すべての台詞がメロディに乗せて発語されるということはすなわち、すべての作中人物がひとつのルールを共有しているということだ。立場は異なれど、彼らはみな同じ方向を向いている。カトリーヌ・ドヌーヴとニーノ・カステルヌオーヴォはすれ違う。それでもふたりは同じ仕方で等しくメロディを交換しあう。だから、そのメロディの底には、『シェルブールの雨傘』と名付けられることになるであろう映画世界を創造するという共同作業に従事する者たちの、美しい自覚が響いている。一篇の映画が目指すものがひとつの固有の世界を創造することであるのならば、『シェルブールの雨傘』こそ完璧な映画と呼ぶにふさわしい。
フランス映画の好きなところは「自転車」を大事にする点だ。ドヌーヴの美しさは第二部で見せる沈んだ表情のときにより際立つ。
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