[コメント] 虹の女神(2006/日)
1度目は試写会。2度目はシネコンで観てきた。
最初の感想は、かなり伏線張りまくって上手くできているなぁ、というモノだった。 映画脚本というのは観客を2時間拘束し、なおかつ飽きさせない! という 使命があるので、かなりの情報量を盛り込まないといけない。 TVドラマ的な展開だけを速くすればいいのか? というとそういうわけでもなく、 一人一人の人物や背景を描かずギャグを飛ばした会話だけで物語を構築すると、TVドラマファンの受けはいいが、「これは映画じゃない」と、映画ファンたちのお叱りを受けることになる。明らかに観客層が違うので、テレビ局が映画に参入するのが普通のこととなった現在、どちらに軸を乗せて作るかという問題もおきてくるだろう。その意味で『虹の女神』は、プロデューサー&監督が大学の自主制作に関わってきただけあって、映画ファンのための映画として成立させている。
岩井俊二さんがラジオ番組で「観客は2時間という枠の映画を楽しむのかもしれないが、作っている人間は、年という単位を作品に凝縮させている」みたいなことを言っていた。1年や2年…もしかしてそれ以上かかる時もあるかもしれない。その月日を、 ぎゅっと2時間におさめる。とても贅沢な娯楽であることは間違いない。そして脚本(物語)の基本は「人間を描く」ことで、その後に時間軸を利用してみたり、小道具をちりばめ伏線を張ったり、観客の感情をスムーズに心地よい波に乗せる、という職人芸のような技の世界となる。この「虹の女神」は、十分にその技を披露し、なおかつ俳優陣も、きっちり仕事をこなし、監督も演出と映像美で魅了させ、「映画」という総力戦で勝負している姿勢に清清しいまでの感動を覚えた。
そして2度目の観賞。
アオイという女の子の性格は、なんて自分に似ているんだろう……である。この役を演じた上野樹里さんが、自分のことだと思った。と何かの番組で言ってたし、原案の桜井亜美さんも、自分のことだと思ったみたいなことを書いていた。そう。これは、気が強くて何かに夢中になり頑張ってる女性の強さと弱さの物語なのだ。岩井俊二さんの作品は、すべて観ているが、男の人ってこういう女の子が好きなんだろうな、という感想を持つことはあっても、決してシンクロすることはなかった。それが今回はどうだろう? 男の理想としての女は描かれていない。現実にもいそうなアオイという女の子が、泣いたり笑ったり頑張ったり恋をしたり傷ついたりする日常を描いているのだが、スクリーンに映し出されるアオイの一挙手一投足が愛おしいのだ。
自分に似ていると前置きをしておいて、愛おしいというオチになったら、ただのナルシズムなわけだが、やっぱり上野樹里のアオイが、不器用で可愛いかったとしか言いようがない。それくらい表情が豊かで、アオイの口からこぼれる言葉の一つ一つが、心に沁みた。気が強いくせに好きになってしまう男が“だめんず”なのも、ツボだった。つーか。好きになった人が、王子さまみたいな凛々しさがあるんじゃなくて、ふにゃふにゃした仔犬みたいな目をした男の子というのが、あまりにアオイらしい。
もうこれは、ビンゴで好みの世界としか言いようがないが、多くの人に愛して貰える映画になって欲しいな、と願うばかりである。
※脚本家・網野酸は岩井俊二氏のペンネーム
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