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[コメント] パッチギ! LOVE&PEACE(2007/日)

こうきたか。ド真ん中をブチ抜こうと突っ込んでくるとは、ちょっと予想してなかった。(reviewはかなり細かく苦言) ☆3.8点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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思った以上にメッセージ性が強い内容に正直吃驚した。というか映画を使ってブン殴られているような映画だ。… 改めて自分でそう表現してみて、成る程井筒和幸らしいな、と今頃になって腑に落ちた感じだ。在日の問題にここ迄ド真ん中から挑んでいる話はそうないだろう。最近映画界もドジョウを何匹でも釣ろうという傾向だが、本来こうでもしないと続篇なんぞを作る意味はないのかも知れない。

…とは言いながら、映画そのものは登場人物たちが物語に終始振り回されており、脚本の練り込み不足は否めない。何せ幾つものメッセージを天こ盛りに観客にぶつける映画にする、と決めてしまったのだから、やるからにはやるしかないのだが、その為には登場する人物たち一人ひとりを如何に掘り下げるかが重要ではないのか。高岡蒼甫沢尻エリカが逃げた(?)ために今回別キャストにせざるを得なかった件について、井筒はインタビューで「観客に映画へ感情移入してもらうためには、物語を邪魔しない子が演じないと」と述べている。言わんとする主旨は解るが逆ではないのか。今回多くの登場人物が出てきているが、みな物語の添えものにされてしまった印象だ。

1974年の物語と1944年の物語(これは誰かの回想なのか?キョンジャ(中村ゆり)の想像なのか?全く乱暴な挿話)が交錯するが、残念なのは'44年の方でキョンジャとアンソン(井坂俊哉)の父であるジンソン(ソン=チャンウィ)が全然描き込まれていない事だ。監督は'44年チームに「別の映画をもう一本作る位のつもりで行く」と発破をかけたらしいが、実際にもやたら「発破」が多く、金の掛け方を間違えている。

1974年の方も主演の2人(中村井坂)を始めとして、在日社会にねじ込んだ東北出身の国鉄職員=佐藤(藤井 隆)・ダメ男の2枚目役者=野村(西島秀俊)・叔父のビョンチャン(風間杜夫)など面白そうな人物がただ表面をなぞるような扱いで、全く残念な作りになっている。

更に細かい事を言えば、前作の康介(塩谷瞬)に全く触れてないのも「人生そんなモンだろ」と言いつつも、前作が「一般日本人が在日の問題に触れる物語」だっただけに一抹の悲しさを感じさせる。今回は東京朝高と国土舘の学生が大喧嘩を繰り広げるが、その設定も何とも意味不明でもう少し配慮が欲しい。映画の導入部を国土舘から見た「憎っくき朝高」の描写にするとか、従弟のヨンギ(朝高生=清水 優)のエピソードを増やすとかしても良かっただろう。最後、映画の完成披露会に何故か国土舘が来ていてまたまた大乱闘になるのだが、その前に国土舘の連中が実は大のキョンジャ=青山涼子ファンであるというシーンがちょっとでも入っていればかなり違っただろう。

前作ではキョンジャもアンソンも高校生で、それ故に閉鎖された高校の世界、縄張り争いなども成立した。今回は従弟のヨンギがそれをやってる訳だが、主演の二人はもう仕事をしてる訳だから、もっと一般社会と在日の問題を描いても良かったのではないか。兄妹は京都から出てきても東京の朝鮮コミュニティ(枝川)に入ってしまったので、キョンジャの芸能界での苦闘はあるにせよ、どうも生活圏自体は別世界のようになってしまっている。

特攻映画に対する痛烈な批判も折り込まれているが、特攻映画制作側の連中が凡愚に描かれ過ぎているのも気になる。「個人がどこで国家に取り込まれて行くのか」という視点で、'44年篇とも絡めて描けていればスゴい映画に成り得たのだが。…幾ら何でも欲張り過ぎか。

主演の中村ゆりはとても魅力的で役者本人はイイッのだが(以前の仕事の後輩によく似ていてドキドキしてしまった…オヤジですいません)、如何せん線が細すぎて、芸能界での振る舞いがあれではただのイタい田舎娘(カモ)に見えてしまう。寧ろ沢尻エリカと逆だったら配役的にはピッタリだったのが残念だ(まぁどうしようもないのだが)。

まぁ完成して初めて判る事も多いからなぁ。井筒監督がこれだけやっちゃっただけでも評価するか。『大君のためにこそ死ににいく』に勝てるといいね。

(評価:★4)

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