[コメント] ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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要塞都市地下壕に退避しているという言い訳がありこそすれ、蒸発する市街地にモブは皆無。ありったけの火力を投じるも使徒の圧力に押し潰される軍の描写で徹底されるのは兵器群へのフェティシズムばかりで、血を流す人間の姿はない。描き込みの技術は獲得したはずだから、この描写がされないのは「逃げ」ではないか、と思う。更に、時間の制約上カットされた(と思われる)日常シーンの欠落により、破壊されても何もなかったように再生する都市とスピーディなCG描写は決定的に質量を持った現実感を欠く。いかに轟音と爆風と血飛沫が画面を支配しようと、庵野世界において「街」は「生活空間」ではなく、フェティシズムを語る道具として破壊され、破壊されるために再生されるためだけの金属の塊に過ぎない。そういった意味では、依然として外部世界との和解という意味での「成長」はここにはない。
また、何事も起こっていないかのような学園モノ(日常)と終末の世界観(非日常)が同居するグロテスク。いかに状況を説明されても、薄っぺらな説明に立脚する悲壮感が軽いことの不気味。とにかくシェルターの描写にしても切羽詰まった緊張感が意外なほどないのだが(ミサトのキャラクター、あれは一体何だ?)、緊張感がないことが「覚悟」というよりも逆説的に明るく閉塞した虚無の支配という緊張感の糸を張っているように見える。さらに、絶望的なカタストロフと対峙するエヴァに重なる高揚感満載の(おそらくは往年の特撮モノを意識した)劇伴が危ういバランス感を醸す。
「シンジが外を向いた」という評価に一抹の不安を覚えつつ、一方で破綻への期待を抑えきれずついに観てしまったが、この目にシンジ=庵野内で完結した現実として映った「あたらしい」エヴァ世界は、本作単体で観ると、しっかり内向的な破綻を孕んでいる。なるほどシンジが「実感」を抱けないわけである。かれの言う「外部のいやな世界」は、口で言うほどかれ自身の目には見えていないように感じる。物語の規模の割には登場人物が限定されて、やけに少ないのも気になる。「外部世界」の手触りは依然として希薄である。迎撃都市の構造もあまりに「都合が良すぎる」。「センターに合わせて引き金を引くだけ」。
「内面心理描写の縮減」と「カタストロフのリビルドに寄せるフェチ偏向」という二極の分裂が、ぽっかりと作品世界に穴を開けている。新世紀版リメイクとして「逃げない」ことを目指しているように見えて、私にはむしろ他者不在の世界描写との矛盾に照らして逆行しているように見える。
むしろ明るく振る舞うことによって際立つ病というものが往々にしてある。フェティシズムの偏向が生む「欠落」。この「欠落」をミサトの異常なはしゃぎっぷり、オタクのハーレム的人物配置に不気味にねじ曲げられた「生き甲斐」が安直に充足する奇妙な明るさ。そんなに簡単に「父に認めてもらいたい」なんて言えるのか?結構友達がいるようにも見えるが。
これはおかしい。なにかが決定的におかしい。徹頭徹尾ウジウジ病んでいる方が健康なんじゃないか?もともと甚だ限定的だった人間関係が破壊されて(もしくは自らが破壊して)、自意識という牢獄の内面へ向かっていく物語だった・・・というか、エヴァに搭乗すること自体が内面(胎内)への潜行(逆行)という行為そのものである。ほとんど設定上からして逃れ得ないテーマであり、破綻を破綻として生きるしかない「終わり」を前提とした現実のおぞましい魅力、極限的な内向化が「死」に至ることを示すオタク庵野の自己批判が身上だったような気がする。要は「反語表現」であったのではないか。変な表現かもしれないが、オタク表現を極めたアニメ的純度の内側からアニメ表現を打ち崩した批評性を読み取ることだって、不可能な話ではなかったのである。大体、各所のエロアングルだって、嬉々としてやっているのか自嘲を込めてやっているのか判別が難しいものがある。庵野氏がものすごく意地悪な男で、フェチに溺れつつ自己批判的な男だとしたらとんでもない高水準だと思うのだが。
暗い心理描写が巧妙(?)に排除された本作の展開は、安直にシンジが成長するビルドゥングス・ロマンへの逆説的批判にすら感じる。「これなら満足するだろ?え?どうなんだい?」とでも?もしかしたらそうか?そうなのか?大体、あの「最終話」と「旧劇場版」は本当に失敗作だったのか?
正直得体が知れなくて気持ち悪いのだが、観ている側としては気持ち悪いからこそ惹かれるということも映画においては往々としてあるわけで、致命的な破綻への期待を胸に、新4部作を見届けたいという気持ちはやはり抑えられない。私としては、映画にいい意味で冷や水をぶっかけられるのは大歓迎なのだ。
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