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[コメント] 転々(2007/日)

虚実入り乱れた人生の断片を垣間見せる福原(三浦友和)の姿に、文哉(オダギリジョー)は「何か」を見ただろうか。子供のころ、よく父親に誘われ散歩した。毎度のように、どこまで行くのだとしきりに尋ねる私に、行き先がないのが散歩だと父は応えていた。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







息子を亡くし、妻の人生を満たすこともできず、何も残せぬまま50年以上生きてきて、ついに行き先だけが決まってしまった男が、いまだ行き先の定まらぬ若者に示すことができるのは、そこに留まらずただひたすら進むという意志だけだろう。

父親は息子を連れて散歩したいものなのだ。私も散歩の途中、数限りなく父と会話をしたはずだ。でも、何も憶えていない。ただ思い出せるのは「行き先がないのが散歩だ」という言葉だけだ。

誰もが始めから目的や目標など持っているとは限らない。そんなもの、始めはなくてもよいのだ。大切なのは、ふらふらとでもかまわない、その場に留まらず前へ進む意志さえあれば、偶然何かに出会うかもしれないということだ。そして、何にも出会わないというのも、また人生なのだ。

もはや散歩とは呼べない福原(三浦友和)の「散歩」を見ながら、亡き父との散歩を思い出し、そんなことを考えた。

(評価:★4)

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