[コメント] スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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冷たさの漂うロンドンの街並みや殺人の舞台となる床屋や安楽椅子、その床屋や調理場への階段等、画面構成の素晴らしさはさすがにティム・バートンと唸ってしまうが、せっかくのそれらが映画的な興奮や高まりへとつながっていかないのが残念だった。
彼は本来もっと語り口の巧い人で、そこにそれをさらに膨らませる個性的な造型がからみあうところに面白さがあると思っているのだが、今回はその個性的な造型ばかりが目立ち、肝心の演出が低調であった。だからジョニー・デップがいくら見事な刃物使いを見せようと、死体がいくら見事な落下を見せようと、そして最後には最愛の妻までもを自らの刃で死に至らしめようと、そこにはただ空疎な画と無駄な血が流れているだけに見えた。また、クライマックスへと流れていく際の少年のデップに対する懐疑心もいささか唐突だし、あれだけの怨みを抱いていた判事の殺し方もただ単にそれまで同様単純に刃物を振り回すだけでは決して満足できるものではない。
その原因は何かと考えてみたのだが、私が思いつく限りでは、やはり彼自身の歌劇に対する志の低さか。大して興味があるとは思えないジャンルへの中途半端な踏み入れが、彼本来の語り口とスピード感を鈍らせているような気がしてならなかった。また、音楽に関しても彼の映画とは思えぬほどにつまらなくて、そのあたりも大きなマイナスポイントになっていたように思う。
ただ、ヘレナ・ボトム・カーターが愛するデップとのささやかな将来を空想するシーンの美しさだけは心から素晴らしいと思った。最後にまた現実へと舞い戻ってきたとき、冷たい風が彼女の心をも揺らすシーンは、その後の彼女の運命をさり気なく暗示させて巧い。そこは買いたい。
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