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[コメント] おくりびと(2008/日)

死に様と生き様の間の物語。きちんとした納棺師による儀式には遺族も心を許すように、この作品も身を任せて楽しめる。081003
しど

設定上、あちこちの葬式を巡る話になるので、当然、家族の別れを巡るお涙頂戴路線になるのかと思いきや、導入部分の葬式がいきなりドッキリオチで始まるのが、この作品の面白さだろう。もちろん、その後は、主人公の成長と葬式を巡る家族の物語が順調に展開していく。

さて、主人公も落ち着いてくる中盤になると、これ、物語がどこに向かうのか見当がつかなくなる。正直、最近見ている物語はシンプルな構成が多かったので、この先行き不明の展開は新鮮だった。

どこに向かうのかわからないので映画に身を任せるうち、地味な映像と田舎の古い町並みとが相まって、久しぶりに昭和の邦画を見ているような心地良さを感じた。ああ、松竹映画なんだった。

すると、夫婦仲から家族関係に展開しつつ、話が転がっていく。これは、葬式を扱う「死」の物語を下敷きに「生」とは何かを描く作品だとわかる。だから、主人公は最初の死体を見たショックを性欲で打ち消そうとするし、納棺会社では常においしそうに飲んだり食べたりしている。死があるから生があり、生があるから死がある。家族のあり方も、生きてるだけではなく、死ぬからこそ実感することもある。

作中、山崎努はやっぱり伊丹作品の『お葬式』と『たんぽぽ』ぽいし、オムツ姿の本木は『シコふんじゃった』のフンドシ姿を思い出し、広末のセリフ「ありがとう」は『鉄道員(ぽっぽや)』と同じ、笹野高史の帽子姿は『釣りバカ日誌』みたいで、故意か偶然か不確かながら、邦画ファンには嬉しい遊び心もある(他にもいろいろあるのかもしれない)。

あとから思い出せば、結構ベタベタな展開だったようにも思えるんだけど、そのベタ感がまた古き良き邦画っぽくて心地良かった。

ちなみに、うちの両親の葬式は、両方とも病院と葬儀社任せだったので、納棺師の出番は無かった。地域文化なのかな?

(評価:★5)

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