[コメント] 人生に乾杯!(2007/ハンガリー)
映画は被写体で決まる。つまり「顔」である。爺さんエミル・ケレシュ(サングラスをかけるとちょっとゴダール似)と婆さんテリ・フェルディの顔を持ってきた時点でこの映画の勝ちは決まり。何をやらせたって面白いし、切ない。冒頭と終盤にひとつずつ挟まれた彼らの青年時代のシーンも感動的だ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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これが長篇第一作だという監督ガーボル・ロホニは、おそらくきっちりとアクション映画を撮ることができる演出家だ。老人の強盗物語にふさわしく概ね脱臼気味のアクション演出が施されているが、それは高水準のアクション演出力を持っているからこそ可能な逆説的技巧だろう。ケレシュとフェルディが落ち合う鉱山シーンにおいて(本当にそんなことができるのか)超急勾配の斜面をチャイカで登り切らせてしまう、その「斜面」の描き方。ホテルの寝室に忍び込んできた刑事ゾルターン・シュミエドを、隣の部屋から出てきたケレシュが一瞬にしてバスルームに閉じ込めてしまうカットのキレ。キューバ人ジョコ・ロシックが隠し持っていた「バス」の使い方(このロシックのキャラクタもまた面白い)。
ラストシーン近く、堂々と『バニシング・ポイント』をやっておきながらの「死ぬ気なんてさらさらないよ」といった風情が感動的だ。生にしがみついている、執着している、というのともちょっと違う。ケレシュが強盗に手を染めたのもあくまで「金がないから。ダイヤのイヤリングまでも奪われたから」であって、「老い先短く、失うものは何もないから」ではない。新たに始められた青春時代を謳歌するふたりに、自死の選択肢なんてはじめからないのだ。
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