[コメント] 扉をたたく人(2007/米)
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冒頭、期限遅れのレポート提出を受けたウォルター(リチャード・ジェンキンズ)は、「個人的な事情」を理由とする学生にそのレポートをつき返す。そしてラスト、タレク(ハーズ・スレイマン)を収容所から出すために奔走していた彼自身がその個人的事情を一切考慮されないままタレクの国外移送という現実を突きつけられる。
このロジックで明らかになるのは、権力を持たないものが虐げられるのを「理不尽である」と受け取る場合には虐げられる側の個人的事情をどれほど認識しているかが重要な要素を占めているという事実である。また同様に、同じことがこれまで実質的に認められてきていたかどうかも重要である。
このタレクの事案はその双方において理不尽であるとするに足るものがある。タレクには普段の生活をしていく上で全く問題がないばかりでなく、タレク自身には一切何の落ち度もない。しかしながら、彼は移送されてしまう。だからこそ、ラストシーンでのウォルターによるジャンベの乱打に心は鷲づかみにされる。二胡の演奏者を見て「ここで叩いてみたい」と話したタレク。無力さ無念さを感じながらただただその場所でジャンベを叩くウォルター。真に迫るシーンであった。
あと、心に残ったものとして、不法移民の収容所の壁に描かれた自由の女神像の画がなんとも欺瞞的に見えた。ネイティブアメリカンを追いやって建国した移民国家が新たな移民に「怯える」様はこれまでの経緯を考えれば相当滑稽であるが、そこまで疑心暗鬼に陥る病理の深さには慄然とせざるを得ない。
その状況にただただスポットを当てた本作はやはり良作である。
(2009.07.20 シネマ ジャック&ベティ)
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