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[コメント] 沈まぬ太陽(2009/日)

原作を読んでおいた方がいいかなという点があることはあるが、長大な原作を手堅くまとめきった仕上がり。ただ、なぜ主人公が膝を屈しないのか、その土台がやや不鮮明で、ちょっと軽い感じがするのも否めない。
シーチキン

主演の渡辺謙はさすがに見応えのある芝居をしているが、それ以外の、いわゆる大物クラスを演じる俳優に貫禄がなさすぎる。

例えば西村雅彦にしても、カラチまで足を運んで渡辺に「詫び状を書け」と迫るシーンでは、それなりに似合っているのだが、後半の重役にまで登りつめた「巨悪」となると、いささか拍子抜けするくらいに貫禄がない。

それに後に社長になる堂本にしても、原作ではとてつもない不気味さを秘めたものとして描かれており、正直、柴俊夫には荷が重いのではないか。閣議だとか、重役会議とか、いわゆる「大物」の悪役を、そういうものとして演じられるだけの貫禄がある俳優は、今の日本にはいないのだろうか。

かつての黒澤明山本薩夫の映画にはそういう役柄には伊丹十三とか加藤武大滝秀治などなど、非常に貫禄のある悪役ができる役者がずらっとそろっていた。だから、閣議だとか密議とかいうシーンにずしりとした重みがあって、「おお、悪いことしてるなあ」という実感があったが、残念ながら今の日本にはそういう役を貫禄をもってこなせる俳優はいなくなったのだろうかと、いささかがっくりしてしまった。

だが、そういう中にあって三浦友和は出色。彼だけは原作以上の存在感を持って行天という役を演じきったと思う。

本作は、かなりロケとかにもこだわっているが、その内容のために大手航空会社の製作協力が得られなかったのだろうか、ジャンボジェット機が登場するシーンはすべてCGでジェット機を描くことを余儀なくされたようだ。そのためにそのシーンだけ不自然な感じが出てしまっている。

大手航空会社にとっては触れてほしくもない大惨事の事故を、批判的に描かれては協力する気にもなれない、ということかもしれないが、もしそうなれば何とも度量の狭い話ではないだろうか。

このCGシーンの不自然さは、かつて山本薩夫が映画化した山崎豊子原作の『不毛地帯』でも、戦闘機の飛行シーンのしょぼい特撮とか、絵で描かれた背景などえらくちゃちゃちなセットだったことを思わせて、なんとなく懐かしい感じがしてしまった。

また、本作で国民航空への会長就任を国見石坂浩二に、利根川総理加藤剛の意を受けて要請に行った「龍崎一清」という人物がいる。利根川総理は墜落事故当時の首相である中曽根康弘氏からきているし、「龍崎」なる人物は中曽根氏の懐刀と呼ばれた瀬島龍三氏からきているのだろう。そしてこの瀬島龍三氏は『不毛地帯』の主人公・壱岐のモデルとされている。

そういうつながりを思い出すと、つい、「ははーん」と思って、いろいろ懐かしさがこみ上げる映画でもある。

(評価:★4)

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