製作者の苦渋の思いが伝わる作品である。別テイクの映像が一つの曲の中に混在していてもサウンドトラックは一貫していて、それは画と音が別物であることを意味し、ただそれだけの編集行為によってドキュメンタリーの本質が大きく損なわれてしまう。

だからこそ逆に、通しで聞かせた"I Just Can't Stop Loving You"のエモーションが希少となる。「不必要な声を出させないでよ」とMJに言わしめるほどの、本人も予期していなかった感情の高まりこそがライブの真髄だ。

そもそもステージアクトを映像に記録して公表するべきではなく（それは例えば舞台演劇のテレビ放送のつまらなさをみれば一目瞭然だ）、また100歩譲って何らかの形で公開するのであれば、放たれたそばから消えていってしまう「放送」というメディアの方が相応しいのではなかろうか、とも思ったりしたのだが、もはやMJはボーダーレスな忘れがたい史実であるから、過去＝死者の記録としては映画という媒体でよかったのかもしれない。