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[コメント] 告白(2010/日)

ようやく分かった。監督は冷静なんじゃなくて冷たい人なんだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 近年になって話題作を次々に作ってきた中島監督による最新作。中島監督作品は大体が原作付きのため、それぞれの作品が全く異なる雰囲気を持っているのだが、どんな作品を作っても、やっぱり監督にしか出来ない味を持っているのが面白い。大体からして何故話題作と呼ばれているのかというと、監督が選ぶ原作がみんな映画向きには思えないものばかりで、映画にするには相当な苦労が必要とされるはずなのだが、それをしっかりとエンターテインメントに仕上げ、自分流の味付けを付けて作っているところがこの監督のプロ根性と言えよう。

 映画にするのが困難な素材をきちんと映画に収めることが何故可能なのか。ということを考えてみると、中島監督は特に人間というものを、極めて冷静な目で見ているからではないかと思える。いや、いっそそれは“冷たい視線”と言っても良い。監督は登場人物に一切感情移入しない。出来事を余計なものを取り入れずに単に出来事だけ描くことによって、物語をぶれさせずに描くことが可能になっている。様々な物語を描くのは監督にとっては挑戦なのだろうが、これは中島監督の冷たい目があってこそ可能な挑戦に他ならない。

 本作は大変面白いが、これで特定の人物に感情移入をさせていたら、この面白さは得られない。はっきり言えば、誰かに感情移入した時点で極めて痛い作品になってしまい、正面から観ることが出来なくなるものを、個々のキャラクタの内面を掘り下げることなく、事実を淡々と描くことによって、観る側も痛い思いをせずに物語を楽しむことが出来る(いじめを扱った作品の傑作には岩井俊二の『リリィ・シュシュのすべて』があるが、あれは全く方向性が逆で、感情移入させまくっていたため、あれは極めて痛い作品に仕上がっている)。

 監督が誰にも感情移入しない、誰にも感情移入させない。これによって本作は初めて作られる物語なのだから。

 だから本作は現代のいじめ問題とかに全くコミットしない。ここに出てくるのは悪意そのものによって動いている人間ばかりで、相手よりもより悪意の高い方が勝利するという、救いようのない物語なのだから。

 しかしそれが良い。存分に中島監督の冷たさを感じられるから。

 私自身本作を観る前には実は相当に身構えていた。本作がとても“痛い”ものになっていないか。イジメ問題や虐待問題へと突っ込んだ社会派作品になってるのではないか?と。今の時代にそれができたら大したものだが、やったらやったで観ているのが辛くなるだろう。そんな風に思っていたわけだが、実際の作品はそういう問題を見てはいるが、中島監督の一貫した冷たさのお陰で、痛さを感じずに済んだ。その点が助かったような不完全燃焼だったような、微妙な気分。

 これって一切登場人物の心情を描かないホラー作品によく似ているような気がする。余韻がそれっぽい。

(評価:★4)

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