[コメント] TIME タイム(2011/米)
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その独創的な世界の設定や美術のディテールは、穴もあるが隅々まで考えられていてまずうれしい。SFではそこが何より大事。とりわけポスターを部屋に貼りたくなってしまうようなアマンダ・サイフリッド扮するシルヴィアのボブとコスチュームのビジュアルにはまいった(もうこれだけで満足できる。レトロで人工美的で『ガタカ』のユマ・サーマンと共通するものを感じさせ、監督の好みのスタイルなのかなと思ってしまう)。
魅力的なのはビジュアルだけでなく、その独創的な世界の中で、何かの欠陥をかかえて生きる人物に焦点をあてて、その人物の煩悶やその人物の世界に対しての無自覚な行動を描いていくのだが、その人物描写の、とりわけ「切なさ」を描くと抜群のセンスを発揮している。時間切れが迫る中で会おうとする母と息子の焦燥や、主人公たちを追うタイムキーパーの屈折した心情などは胸にせまる。『ガタカ』の主人公の近視とか、『トゥルーマン・ショー』のひとりだけ社会のことに無知であるという設定は、「完成された(大人の)世界」に対する未成熟さ、それぞれ「不能」や「童貞」を根源としているように思う。監督の描く登場人物の切なさは、成熟した大人や社会に対する小児の思春期の心情と何かリンクがあるがゆえに共感できるように思う。
それでいうと、今回は世界のことに自覚的で自立しているウィルというキャラではなく、温室育ちのシルヴィアがその役割を果たすはずであり、それは「走れない」や「泳げない」という小児時代の「運動能力への不能感」にこそ最も見出せるべきだったのに、なぜかあっさりスルーされてしまっている。その雑さはとても残念だった。
腕に刻まれた「時計」の緑の光跡が夜の海に揺らいでいるシーンは『ガタカ』のロケット発射シーンにせまる美しさだった。
ところで、多くのコメテの方のご指摘にもある『俺たちに明日はない』の引用だが、これを見ていて、「俺たちに《明日はない》って、言いえて妙だな」、と感心したのだが、これって原題は「ボニーとクライド」なわけだから単なる偶然なわけだったのだ。
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