[コメント] ニーチェの馬(2011/ハンガリー=仏=スイス=独)
浮遊するように自在な視点は突然ある一点で凝固し動かなくなる。暴風は轟音とともに不条理な敵意となって容赦なく襲いかかる。一方、不気味に歪んだ音の束が、妙に心地よく調和する不思議な旋律。無彩色の陰影は単調で質素な人の営みの普遍性を饒舌にあぶり出す。
この終末譚で最も生命力を発散し躍動したのは馬である。しかも、それは冒頭でのみだ。あの苦しげな馬の姿こそが、生命の最後のあがきだったのだ。残された6日間、人も馬もただ存在していただけだ。
「眠って食べるだけ」の営みには、すでに意志はなく(フォークすら使わない!)、当然物語りもなりたたない。即物的に極言すれば、そこにあるのは白いスクリーンだけだ。タル・ベーラはあらゆる付加価値を削ぎ落とし、純粋に視線と陰影と音だけを使って「無」に帰っていく世界の姿を、純白のスクリーンに描いてみせた。純度100%の映画。
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