[コメント] エクスペンダブルズ2(2012/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
スタローン監督は誰が何と言おうと作家性の人なので、職業監督が持っているバランスをどこか欠いている。大中二病ウヒウヒ絵巻たる本シリーズのパート1においては、そのキャラクター造形において80年代、90年代のアクション・スターを自虐ギャグをも平気で駆使するセンスで一気にメジャー・スクリーンに復活させるという大命題を見事に果たして見せたものの、映画は娯楽性においてはどこか消化不良の感を残していた。
今回サイモン・ウェストは、前作のキャラクターを壊さず、またスターたちのセルフ・パロディを節操が無いまでに駆使しつつ、前作でスタローンが欠いていた娯楽映画らしさを存分に発揮していたと思う。面白いかどうかで言ったら、ぶっちゃけ今回のほうが面白かった。
いや、正直言って、おいおいと思う瞬間はけっこうあった。サングなんてマンガ並みの設定で、男たちがみんな悪党に連れて行かれた村とか『北斗の拳』かよみたいなアレで、さすがにどうなのと思ったけど、まあご愛嬌だって思えてしまう。この映画のストーリーにケチをつけようって人は、お仕事お忙しすぎるのですよ、きっと。
だってこの映画、サングがいかにアレでも、その斜め上を行くほどヴァン・ダムがカッコいいのだ。もう、リアリティなんぞとっくのむかしにどうでもよくなる圧倒的な存在感。だってヴァン・ダム、スタローンに言ったらしいぜ。「頼むから、もうちょっと後ろに下がってくれ。じゃないと、俺の回し蹴りがあんたの首をもいじまう」ひゃっほーっ!
この映画がヴァン・ダムの映画になっているというのは、非常に重要なことだ。象徴的なのは、スタとヴァン・ダムが一騎打ちする前座で、シュワとウィリスが大変くだらなくも傑作なコントを演じて見せたことで、まあ、考えてみても欲しいんだけど、シュワもウィリスも実に頭の良い人たちでアクション俳優に終わらず方や州知事として、方や色んなジャンルの作品に恵まれて華を咲かせた器用な人たちだ。
そんな2人に、映画は前座のコントをやらせる。そして然る後に、大スターでありながら自分を食わせたら右に出る者のいない裏名優シルヴェスター・スタローンと“その男”ジャン=クロード・ヴァン・ダムのハードコア一騎打ちを延々と見せつける。アクション俳優としての2人は、どこまでも不器用なナルシストで、どっちも底を見ている、政治家や性格俳優の仲間入りなど到底できなかった人たちだ。方やジジイで、方やいいオッサンになっても、その辺いっさい変わっていない。なあ、こんなタイマンに燃えずにいられるかよ?
私なんか、もうね、冒頭のヘリコにバイクをぶち当てるとか見ただけで、しょうもないほど興奮します。今や22年前となる14歳と全然かわっていない自分をちょっとどうかと思いつつも、嫁と2人の娘が寝ているまにいそいそと家を出て、気がついたら、初日の初回におりましたよ。映画館の外の複合商業施設にはキャリーなんたら言う不思議ちゃんアイドルが来るとかで黒山の人だかりが出来ていましたが、「俺が用があるのは、マッチョな奴ら」と思って素通りですよ。うっかりしたら、その筋の趣味の人かと思われかねませんよ。
ただ、この手の映画にあんまり縁のない人たちに向けて一言だけ言わせてもらうなら……
たとえば、リアルな不幸や過酷な現実を「ほーら、こんなに血が流れていますよ」って訴える作品もそれはそれで大切で評価されるべき代物なんでしょう。でも、スタローンを初めとして彼らの実人生も、たいがいでねえ。スタローンなんか、この映画でスタントマンを死なせたり、プロモーションしている間に息子が死んだり妹が死んだり、それはそれは大変な人生を歩んできているわけです。特に死んだ息子・セージ・スタローンはロッキー・シリーズにロッキーの息子として出ていて、特に5では俺は完全に彼目線でロッキーを見ていた。その後『デイライト』ではロッキーの息子からチンピラ囚人に成り果てていて、さらにその後はリアルに薬中のB級映画バイヤーになって、ものの見事に七光り転落人生を歩んだあげく、6では別の俳優が演じることになった。話はそれましたが、何が言いたいのかと言うと、スタローンの人生にはカンヌもののネタがいっぱい、でも彼はそれを自らのショーのネタにする気はないんです。血を見せるなら、素敵な極悪人たちや、かわいい仮入部の、脂ギッシュなオッサンたちに溶け込めず進路に悩んでいるイケメンな若者の血なのです。
リアム・ヘムズワース演じる彼の役どころ、良かったですね? ヴァン・ダムの次ぐらいに立っていました。彼は脚本の上では、“復讐”というモチーフの出汁にすぎない、殺されることがお約束の役所です。それでも観客が感情移入できるよう、脚本家スタローンは書き込める才能があるんです。
あるいはバーニー・ロスのキャラクター、イケメンな若者に恋人への想いを語られて、無邪気に同じ想いをしたことがあるかと訊ねられて、「あるよ。俺でも恋人を選ぶ」と苦し紛れに言ってはバイクをぶっ飛ばした挙句、ハゲにとっつかまるバーニー。これが俺だと言ってドクログッズで身を固めながら、どこかでそんな幼稚な自分に冷めを感じている年相応の荒くれ者のリアリティ――深えなあと思わずにいられない、一ファンの長い一言にして戯言でした(ああ、ドルフ・ラングレンのことまで語れなかった…)。
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