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[コメント] ジャンゴ 繋がれざる者(2012/米)

今日の普段の生活や社会制度にまでも続く自らの歴史の、しかも暗黒面をとりあげながら、硬直せず、不謹慎そのものだが不真面目ではない、こんな痛快な作品を作れる人間は、比喩でなく世界で唯一タランティーノだけだろう。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「自由を手にした奴隷が、妻や同胞を奪い搾取した支配階級に復讐していく」というプロットで誰かが映画を企画したとしても、こんな風合いの作品には絶対ならないような気がする。「先が読めない」というのは、ふつう「展開」の場合が多いのだが、作品世界がどうまとまっていくのか、テーマの重さ、悪趣味、小気味よさ、楽しんでいいのか、考えさせられる方向か、その着地点がわからないというのはあんまり経験することはない。

ラスト、ブルームヒルダが人差し指を両耳につっこんでふさぐ際の、その茶目っ気たっぷりの仕草が、この作品を然るべくところに着地させてくれた、と思った。うまくいえないけれど、この社会問題を底辺にもったバイオレンスアクションは、最後こうまとまるべきであって、やっぱタランティーノってわかってるなぁと思った。どんな血みどろの死体を築いた後でも、ヒロインは満面の笑みでその結果を享受していい、というメッセージが伝わってくる。それが正しいと思えるのは、馬上のジャンゴとブルームヒルダは、訪れる次の町でいつ馬上から引きずり下ろされるかもわからない、これからが戦いの始まりだということを後ろ姿のショットで予感させてくれるからだ。

舞台がキャンディランドに移ってからの話の面白さは超一級で、おぼっちゃまをたしなめる実質屋敷の支配者というヒエラルキーに浴していた老執事スティーブンスが、自由人という黒人の登場に、現状属する社会の秩序の崩壊を予見し、うろんな目でジャンゴを追っていたからこそ、結果として一人シュルツとジャンゴのたくらみを察知するという展開のうまさ。そして主の危機を救ったという自負が、一転、シュルツの銃弾によって主の命を奪う展開になった時の、自分が得意げに暴いたことで、あろうことかかえって自分たちを破滅させてしまうことになるというドラマと、結局執事が本当に守りたかったのは主人よりも、何より自分の黒人奴隷の頂点に君臨している既得権益であるという私欲に鉄槌が下るというテーマ性という重奏的な脚本の要求に応えるサミュエル・L・ジャクソン。「すまん、どうしても我慢できなかったのだ」という、自分も含めジャンゴとブルームヒルダを窮地に陥れてしまうきっかけを作ったというドラマ上での必然である悲壮な表情と、同時に、これがなきゃ始まらないでしょ?というべき、これがお約束のドンパチの幕引きであるという、プロット上の道化であることをも、ちょっと舞台がかった芝居で匂わせるクリストフ・ヴァルツ。もうあまりにも完璧すぎて、これだけでもまた再見したくなるというもんです。

(評価:★5)

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