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[コメント] エリジウム(2013/米)

デイモンコプリーのド突き合いへの収斂は「革命」の活劇を矮小化した一方、政治+福祉+技術配分の偏りが生んだ「歪んだ結晶」の衝突としてグロテスクな見応えあり。強化骨格を着用型でなく生身に埋め込む「半人」感、無菌的CGに対峙する血と錆と埃、混沌を強引にヒューマンで締める手塚的センスも嬉しい。が、フェイクドキュメンタリを採用出来なかったことで状況説明の甘さが露呈。テーマ群が未消化で勿体ない。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







(『第9地区』『スター・ウォーズ/エピソード3』のネタバレあります)

まず良かった点をいくつか。

 被抑圧者が抑圧者の手足であるドロイドを生産しているという設定。保護観察官ドロイドとマックスのディスコミュニケーション漫才。これは前作同様の筒井的なアイロニーのセンスが滲んでいて嬉しかった。アーマダイン社社長(この俳優さん好き)の執務室でバッハが流れているのはバカみたいな演出だが、寓話・ブラックユーモアと思えば納得がいく。

 終盤のドロイドの行動反転は、『スター・ウォーズ/エピソード3』のジェノサイドと逆のことが起こっている。これも嬉しい。リブートプログラムのキーワード一つを変えるだけで救われ、滅びもする滑稽さとともに、血と混沌の物語から、「言っていることは簡単なことなんですよ」と締める姿勢に僕は弱い。(後述とおり、今回はこれが浅いのだが)

 また、登場人物は小物だらけである。主人公の行動の動機は、単純に生存の一点につきるのであって、解放だとか初恋の人の子どもの運命とか、それは自らの生存の延長線上にあるかないかといった程度の問題で、基本的に行き当たりばったりである。英雄感が皆無だが、逆に『マトリックス』的に覚醒したとしたら鼻白んだだろう。エリジウム側の長官(フォスター)も小物である。密航船の撃墜命令時や審問に唇をわななかせたりする。結構細かい演技で、事切れる瞬間の「無駄よ」という台詞には、抑圧の血に飽いた者の安堵が滲んだようでもある。無味無臭の鉄面皮ではなく、歪んだエリジウム制度の中、成りゆきで適合してしまっただけの人間なのだ。

 そういった小物たちによる混沌という基本センスは前作から変わっていない。良い意味で非常に矮小。つまりあくまで人間の物語である。このセンスは大事にしてほしい。

 そして、コプリーはやはり使える俳優さん。強い訛りのある発音が、多言語が入り乱れる近未来のイメージに添う。常に笑っているような目がサディスティックな役柄に良く合う。

 以下は欠点。

 エリジウムにはエリジウムなりの大義というものがあるはずで、長官(フォスター)にそれらしいことを言わせてみたりはするものの、不十分。それが歪んでいようがいまいが、始まってしまった制度の破壊には代償がともなうから、それを必死に守ろうとするのが秩序の言い分である。そもそもエリジウムの開放は人口爆発に拍車をかけ、人類と地球の自滅につながってしまうのだ。フォスターは抑圧者側の人間的な揺らぎものぞかせているから、混沌側のマックスに歩み寄りながらも対峙するような劇的瞬間があるのかと思った。

 秩序は混沌に揺らぎ、混沌は秩序に揺らぐ。一面的な世界などあり得ない。しかし譲れない一線もある。そのグレーゾーンぎりぎりの線上におけるド突き合いに至る上での「革命」を描くのだと思った。しかし、『第9地区』を撮った監督にかかわらず、これがないことの驚き。フォスターがあっさりなのは誰しも驚くと思うが、僕が退場に面食らったのは、上記の理由からである。物語に楔を打ち込めないまま、本当に小物のままに終わってしまっている。

 グレーゾーンということについて補足すると、『第9地区』は徹底していて、精神的にも肉体的にも「半人半エイリアン」というニュートラルな立場に主人公を放り込み、そこから見える世界を描いたことが意味を持っていた(これ、非常に深かったと思います)。この点における今回の「半人」には意味がない。マックスは特に葛藤しない。というよりエリジウムの大義はほとんど描かれないため、葛藤のしようがない。幻想としてのエリジウムが崩壊した時に起こる、秩序から混沌への揺り戻し(恐らく指導者不在により発生する虐殺・暴動)など「その後」については想像に任されているが、そういったテーマもより深く示唆しつつ描くべきだったのではないか。混沌の物語として勢力図が単純過ぎ。「抑圧者さん、自業自得ですよ、ちゃんちゃん」では残念だ。

 「不死」のテーマにも説得力がない。嫌でも『火の鳥』が頭に浮かんでしまうのだが、単に高度医療福祉の象徴として取り上げられるだけ。例えばエリジウムに嫌気がさして亡命する人間だっていそうなものである。「エリジウムから見れば地球も美しい」という台詞を吐かせているくらいなんだから、勢力図はもっと混沌に落とし込むことができるはずだ。

 この監督は性根がB級と言われるが、根っこで語りたいことは結構熱いようだし、手塚的センスのオリジナルSFを撮るニューフェイスとしてはダンカン・ジョーンズと並べて応援したい(ヒューマンな心情をSFに持ち込むなら、ダンカン・ジョーンズのうるおいと緻密さに学んで欲しい)。また、この監督の汚い戯画的アクションを生かすのは筒井的ブラックユーモアのはずだ。『第9地区』でブタや「エビ」を吹き飛ばすシーン(そういえば今回もブタが出てきましたね)、「エビ」との捏造セックスシーンのモザイクが誘う引き攣った笑いと、この溜めを生かした「ファック!」なドンパチこそが良かったのではないか。今回はハンス・ジマ−のパチモンみたいな劇伴や、カメラのセンスの悪さも気になった。筆を磨いて、頑張って欲しいと思う。

(評価:★3)

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