[コメント] チョコレートドーナツ(2012/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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原題のままだったら、多分誰も行かないだろうな、と思う映画は多い。この作品も、邦題をつけた人が勝ち。この映画のテーマを謳おうと思ったら、タイトルはつけにくい。チョコレートドーナツにしたことで、私のようなフツーのおばさんにも観てもらえるチャンスに恵まれるってわけだ。なんとなく、ハートウォーミングな感じするじゃない?
Any day nowというのは、ラストでルディが歌う”Any day now, any day now , I shall be released.”の歌詞からわかるとおり、もうすぐ、もうすぐそうなるよ、的な意味。この映画の舞台となっているのが79年だというから、あれからほぼ40年。はたして、ルディが魂込めて歌っていたとおり、その日は来ているのか?うーん、来てないかな。残念ながら。
ポールの家に同居して初めての三人での夕食でのシーンが素敵。全然食べないマルコにポールは何が好きか聞くと、マルコは素直に「ドーナツ」と答える。まず、この時点で私は感動しちゃうのだ。そのあと、ルディが「ドーナツが食事じゃ、健康によくないわ」と言うのだが、ポールは「たまにはいいじゃないか。そういう日もあるさ」という。マルコは自分の気持ちを素直に表現していいのだと安心し、ルディもポールも率直な意見を言い合うことで、マルコがハッピーでいられる状況をつくる努力をしている。ポールとルディがちょうど父親と母親の役割を果たしている、すごくいい場面。理想的にすぎるかもしれないけど、血のつながりのない三人が家族になったことを語る、いいシーンだと思う。
マルコのためのはずだった裁判が、どんどん同性愛者の二人を不道徳な二人と断罪するための裁判になっていき、最終的にはジャンキーの母親の元に戻すという、マルコにとって最悪の結果になるわけなのだが、裁判官はどうしてそれがマルコにとって最悪の結果になるのか、わかっていない。その後、すぐに、本当に最悪の結末が待っているわけなのだけど、それを知ってもまだ、きっと何も感じないのだろう。すぐに忘れてしまうのだろう。だって、自分は法律にのっとった仕事をしただけだから。悪いのは自分ではないから。この映画のすばらしいところは、この悲惨な現実をそのまま描いてくれたことだと思う。たとえ同性愛者じゃなくても、ルディとポールに養育権が認められるなんてことは絵空事であり、マルコのような状況の子ども(障害のある子はもっと)は最悪でも本当の親と暮らすか、劣悪なところでも施設で暮らすかのどちらかしか選べないのが現実なのだ。私たちにはどうすることもできないのだ。今はそうなんだ、と「知る」こと。私を泣かせるほどのショッキングな結末を、みんなにちゃんと観てもらうこと。そして、自分がルディの立場だったら、マルコを見てどうするか、真剣に考えてほしい。どう?今はかわいそうだ、ひどい!と思っているかもしれないけど、もし自分だったらダウン症の子の面倒みるなんてごめんだ!と思っていませんか?要するに、そういうことを言いたいんだと思うんです。
あとは、余談。ほとんど、映画とは関係ありませんけど、ま、いちおう。
生物学的な親だっていうだけで、児童相談所は家の中に介入できない。親が「今度はちゃんとやる」と言えば、子どもをその状況に戻さざるを得ない現状。DNAが一部同じだってだけで、なぜそんなに信用できるのか?産めば親になれるわけじゃない。家族になれるわけじゃない。何度も何度も同じことが、世界中で起きている。40年たった今でもだ。法律は、弱者を守るものでなく、お金持ちや権力者を守るためのもの。私たちのような一般人は絶対にそれを忘れてはいけないのだ。たとえ、裁判で養育費の支払いを命じられても、現実には支払い続ける人がほとんどいないというのも、法律なんて全然子どもの福祉のためになってないという証明でもある。「オレの顔もわからなくなるような子のために、なんでオレの金を払うんだ?」という身勝手な言い分を、法律はどうすることもできないのだ。はたまた、「アンタがいるから、離婚できないんだ」、「アンタがいるからデートもできないんだ」と言われ続ける子どもがどんだけ多いことか。「アンタのために、私だってやりたくないけど、アンタを叩く」と言われ続ける子どもが、実は自分の子のとなりの席に座っているかもしれないのだ。お互いに親権が欲しくないという戦いをする人たちもいる。今の法律では、絶対にどっちかに決めなくてはいけない。どちらの親からも邪魔者扱いされた子どもは、法律が決めてくれた居所で、いったいどんな暮らしをしていくのだろうか。そういうことは、法律には関係ないことなのだろう。子どもの健全な成長のことなんて!
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