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[コメント] さらば、愛の言葉よ(2014/仏)

言葉を、ノイズとの臨界へと追い込むゴダール。映画という人工的な装置によって逆説的に実現される、空間への原初的な驚きを、3Dという、更なる人為性を駆使して未踏の地へと推し進める。
煽尼采

ゴダール含めてスタッフ三人、自らカメラを二つ並べて手製の3Dカメラ、という、DIY精神溢れるフットワークの軽さで撮られた3D。手製のカメラということからして、3D映像の方も、ちょっと歪んだ、或いは極端な遠近感になってるのかな、まぁ、それも含めてゴダールらしい空間演出なのでは、なんて予想して観てみたら、まさにそんな感じだった。

綺麗な女優の裸体が惜しげもなく披露されるのは嬉しいんだが、例えば、彼女を背後から捉えたカットでは、腰が極端にキュッとしているというか、やたら窪んでる。人物の顔をクローズアップしたカットなど、鼻が突き出てこちらに迫ってくる。だけど、そうした不自然な3Dというのも、却って、自然さを装った、金と手間をかけた「高級な」3Dよりも、視覚的な面白さを貪欲に、かつ野蛮に追求していて、むしろいいかも。そもそも、普通に日ごろ鑑賞している2D映像というものにしても、ホントは不自然な視覚体験なのに、なんとなく、慣習的に、さも自然なもののように錯覚しているだけなのでは? なんていう根本的なことに思索を誘われるのもゴダールならでは、か。二つ併せて一つの立体映像を撮っていたはずのカメラ二台がそれぞれ別の被写体を追うあのシーンは、3D映像なるものの人為性を露わにする、というのみならず、映画として「通常」の映像と信じられている2Dの人工性をも暴露し、一瞬、映画的空間を引き裂いて解体してみせる、批評的にして遊戯的なゴダールの自由を感じさせる。

粗い画質であったり、意図的に色彩を、ブラッケージ風に変換したサイケな映像なども、3Dで観ることは滅多にないであろうもので、とても幻惑的。それに、落ち葉の漂う水面を捉えたカットの美しさや、ゴダールの愛犬くんがぽつねんと佇む草原や湖畔、子どもらが駆ける自然の風景の広がり。そこには、何か原初的な、空間と共に在ることの幸福感とでもいったものが溢れている。

故に、夥しい引用含めた台詞の数々を読ませる字幕の存在が、かなり鬱陶しい(笑)。ゴダール自身がいつもの調子で繰り出す文字群は、特に邪魔にはならんのですが。

言葉といえば、邦題が加えた「愛の」は、無駄に「あまりに人間的な」意味を与えていて冒涜的。

(評価:★4)

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