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[コメント] イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密(2014/英=米)

シックなおしゃれ小箱風「エニグマ」と、多数のシリンダーがぐりぐり回転する容貌魁偉の「クリストファー」の外観的対照は称賛に足る美術・小道具班の仕事だが、欲を云えばクリストファーはもっと面妖に巨大で、部屋を埋め尽くすほどの体積を誇ってほしい。各時代の最先端電子計算機がそうである以上に。
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というのは決して瑣末な趣味的要求ではない。暗号解読は文字通り「机上の計算」に終始してしまいそうな題材で、概してそれは「映画的」とは云い難い。しかしながら『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』は(おそらくは史実のアシストを受けて)それを「運動する巨大機械」で描くことができるという。何たる僥倖かしらと飛び跳ねたくなるものの、ゆえにこの「そこそこに巨大な」クリストファーの造型は落第ではないにしても物足りなさがつきまとう。もっと馬鹿馬鹿しいほどに大きく誂え、呆れるほどに激しく動いてほしい。いや、そうであるべきだ。その美術-運動のスペクタクルには考証の正確さを蔑ろにするだけの価値がある。

上の一件に加え、次の事柄がモルテン・ティルドゥムという演出家の鈍感疑惑をさらに深める。映画が中盤に至るまでに、ベネディクト・カンバーバッチマシュー・グッド他数名が演じるところの「いがみ合う作中人物同士が、あることをきっかけに和解・協力する」という「映画って、素敵やん」となるための絶好機が調えられる。しかしぼんやりと定型をなぞるばかりの演出は、そこから併殺崩れの間にかろうじて一点を獲得する程度の成果しか挙げられていない。これでは演出家が「頓馬なのかな?」と疑われてしまうのも避けられないだろう。たとえば同種の状況を迎える『滝を見にいく安澤千草桐原三枝に対して、沖田修一はいかなる小道具利用と演技演出でもってあの鮮やかな感動を創造してみせたか。思い返すにつけ、映画の面白さを決定する第一要因は演出家の能力であると痛感する。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ゑぎ[*] YO--CHAN 寒山拾得[*] けにろん[*] 緑雨[*]

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