[コメント] メッセージ(2016/米)
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謎のヘプタボットと呼ばれる宇宙人の言語はもちろん、重低音響くサウンドがビシビシ伝わってくるのと共に、脚本上の突然の襲来、そしてその目的不明という事態に終始緊張感が生まれて緊迫感が凄まじい。 加えてSFというジャンルを超えた、文字通り『メッセージ』がこの作品にはある。どうしてもそこに触れるとネタバレになってしまうので自分なりに感じたことを下の方に書かせてもらいます。 ネタバレに触れない所で言えば所々でフラッシュバックされる娘とのシーンは印象的です。現実世界とは明らかに光のテンションが異なり、光輝いて見せている辺りは彼女の心に引っかかるものを感じさせています。 その難しい役をこなしたエイミー・アダムスも素晴らしく、強さと脆さを兼ね備えた絶妙な演技はらしさが光っていました。
ここからはネタバレ。 本作において重要な点はいろいろある。謎の飛行物体に対しての各国の対応、彼らの来た目的、さらには本作を見ていく上で先入観によって勝手に判断してしまう監督の仕掛けたトリック。どれも重要な伏線。それが集約されて本作の深みが増す。
正体不明、目的不明の宇宙船が現れた時、各国は混乱する。協力体制で解明していこうとしていたスタンスから一気に殻に閉じこもったように情報を遮断し始める。中国は特に象徴的。コミュニケーションが取れないものに対する警戒。自己防衛のための攻撃スタンス。それに対する主人公でたちの対称的な姿勢は印象的。 中国の考えもわからなくはない。もし無抵抗に攻撃されたらたまらない。だったら先に武力行使を。しかし、その中でも懸命に彼らを理解しようと、コミュニケーションを取ろうと試みるルイージとイアン。必然的に主人公視点が核となり共感していく構成。
彼らの言語は誤りではない。「武器を与える」ために来た。でもそれは人類を危険に晒すためではない。人類を守るために来たのだ。武器とは言葉。ルイーズに「武器を持っている」と伝えたのは彼らの言語の概念から彼らと同じ世界を見ることができ、時間軸を平面で捉えることができたということ。そして、武器=言葉によって人類を守ることができるんだということ。 わからないから、理解できないから敵対するのではなく、わからないから、理解できないから歩み寄るのだ。少しずつでも。こんな時代だからこそ考え直させる。
それに加えて時間軸のトリックはさすが。そのために難解になったのも事実だが、勝手に娘が亡くなること、父親が出ていくこと、そもそも二人の存在自体が過去の出来事だという刷り込まれ、ラストに衝撃と共に感動を生んだ。
何故なら彼女の選択は、今後の人生で起こっていく悲劇的結末を知っても尚、それに向かって人生を肯定的に捉えて歩む決断をしたということだから。 今後の人生、喜びも幸せもある。できれば多い方がいい。でも別れや悲しみだってある。避けれるものなら避けたい。じゃあわかっていたら避けるのか。 「これから先の出来事を知っていたらどうする」とルイーズは尋ねる。イアンは言う。「もっと自分の感情を強く伝えるかな」 避けては生きれないものもあるだろう。だとしたら逃げるのではなく、受けて入れて生きていかなければ。強く。強く。いつか死を迎える。別れが来る。それでもそれを前提としてでも一瞬一瞬を大切に、もっと自分の思いを伝えて生きていきたい。
過去も未来もないという時間軸の概念は正直難しいが、娘の名前がハンナ(HANNAH)と名付けた辺りは前も後ろもないという繋がりを象徴している感じもしたりして、監督ならではの構成とSFにして普遍的なメッセージ性の込められた本作は数年後も色褪せずに味わうことのできる名作と言えると思った。
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