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[コメント] シェイプ・オブ・ウォーター(2017/米)

「助けられないのなら、私たちは人間じゃないわ」(含『美女と野獣』のネタバレ)
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







というサリー・ホーキンスの科白を二番館の予告編で繰り返し見て、これはひょっとして凄い映画ではないかと思って慌てて観た。この科白は、ホッブス以来の自然権はアマゾンの怪獣にも適応されると宣言しているように聞こえる。怪獣も人権があると云っているように取れるのだ(犬猫を助けなければ人間じゃない、という意味では全然ないのは明らかだ)。これを云われたリチャード・ジェンキンズ(黒人夫婦を追い出すピザ屋という前振りがある)は猫喰っちゃったダグ・ジョーンズを本能だから仕方ないんだとフォローする。人権擁護は怪獣を前に白熱化するように見える。

しかし、私の偏向した志向を煽り立ててくれたのはこの辺りに留まり、総体はホーキンスの性愛による越境となる。これではまあ『牡丹灯籠』系列、怪獣の陰茎の噂話で極まるような、蓼食う虫も好き好きという処に行きつく。ホーキンスのエロスはそれで満足なんだろうが、それ以上のものは出てこず、結局は先の人権宣言も方便ぐらいの扱いでしかない。

これだけでは時間が余ったのだろう、米ソ宇宙戦争みたいな話は中途半端でやたら退屈。一体、マイケル・シャノンの女房相手のマシーンのようなセックスは、ホーキンスらと対比された男根主義ということなんだろうが、あんまりにも図式的じゃないのか。ソ連の面々もマヌケが過ぎる。これではノアールのパロディにもならない。

ホーキンスの軽やかな佇まいは魅力的だが、相手が怪獣なので徹底されず、この落差が演出意図なんだろうけど不十分。最後のドンくさい入水シーンなど見ると『スプラッシュ』の軽やかさが懐かしく思われる。ただ、夜空へ飛翔する『美女と野獣』を真逆にした水中のラストは美しい。最後まで魔法が解かれず貴公子に戻らないダグ・ジョーンズには、コクトーの人間中心主義への批評があった、のかも知れない。

(評価:★3)

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