[コメント] 焼肉ドラゴン(2018/日)
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障がいが相似形になっているこのふたりだけが演技のトーンが低いのがとても効いている。「働いた、働いた」のリフレインは見事な一篇の労働歌。いいなあ、この男優さん。大谷亮平みたいな男に娘を頼むと頭下げるのが切ない。真木もこんなにいい女優さんなんだとほとんど初めて気づかされた。これまでのガラッパチがメインの役処よりずっと似合っている。
ホンは基本、無骨に在日コリアンの来し方を総覧的に纏めたもので、俳優たちの双肩にリアリティを求めており、演者は見事に応えている。その意味で本作は俳優の映画だと思う。ただ、なぜ本国に帰れないかの説明が何度も出てきて、これはネトウヨの馬鹿どもに真面目にお答えしますというニュアンスがあり、この点リアルタイムのホンになっていると感じる。
イジメ(そんな言葉もなかった)で死んじゃう大江晋平は、同じような境遇で不登校になった同級生がいたので心に残った。井筒映画には登場しないが、在日コリアンにも当然ナイーブな子供はいるのだ。美術もとてもいい。ラストの家屋倒壊は新藤兼人の諸作が想起される。無骨なユーモアの愉しい作品でもあり、お替りの薬缶も大八車に寝そべるイ・ジョンウンもいい。私のお気に入りは桜庭ななみと根岸季衣が乱闘中なのにもかかわらず伊勢佐木町ブルースを演奏し続けるキャバレーの楽団。
作劇は真木・井上真央・大泉洋の三角関係が上手く語れておらず(何でそもそも井上が大泉との結婚を承諾したのかよく判らず、その後の展開も同様。周囲に若い者が少ないという関係性の貧しさがあったのかも知れないと想像されるけど、それを納得させる描写がない。演じる井上が気の毒な処がある)、飛行場で犬に脚噛まれるエピソードは膨らみがないし、最後の家族離散も、半島に帰ろうとする子供たちの意図に満足のいく説明がないのが不満。演劇の翻案らしいけど、2時間の尺では短すぎたのではないだろうか。そうだとしたら惜しいことである。桜庭(初めて観たのだが、八千草薫似で驚いた)のコメディももう少し観たかった。
なお、在日コリアンの傷痍軍人に補償がなされなかった(日韓政府とも門前払い)のはオーシマが『忘れられた皇軍』で記録した通りの事実。帰還船の沈没事故も『エイジアン・ブルー 浮島丸サコン』で描かれた事実である。国有地占拠は、ここでは撤去させられているが、京都のウトロ地区問題などあるのは周知のこと。大蔵省(財務省)理財局ってのは本来はこのような鬼畜な不動産屋なんだぜ、ということで、森友問題は例外中の例外と逆側から示してもいる点もリアルタイムの映画であった。
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