[コメント] 燃ゆる女の肖像(2019/仏)
静謐にみえて熱っぽく、寡黙なようで多弁な演出。見られることを拒む女(アデル・エネル)を、義務として見ようとしていた女性画家(ノエミー・メルラン)が「見つめ合う」ことで互いに魅入られていくさまがサスペンスフル。秘匿と覚醒と解放の恋愛映画。
ときは18世紀。長女を喪った貴族の女主(ヴァレリア・ゴリーノ)と、その次女(アデル・エネル)とメイド(ルアナ・バイラミ)のもとを訪れる若い女画家(ノエミー・メルラン)。時代から抑圧された女たちは、その規範から隔絶された孤島に集う。そして男の登場人物たちは物語にからむことを周到に排除される。
ベールに隠された次女の顔からは表情が消滅し、屋敷に残された肖像画にも顔がない。衣装によって色分けされた貴族の次女と女画家とメイドは、仲良し少女のようにカードゲームに興じ、神話の悲恋物語に胸をときめかせる。堕胎という秘密を共有した彼女たちは、土地の女たちの祭り変則拍子の「合唱」で覚醒する。
そんなミステリアスな内心世界が、危うい光と影で制御されつつ、前半と後半でダイナミックにカメラワークを一変させる計算され尽くした画づくりで浮き彫りにされる。撮影監督のクレア・マトンも女性だ。音楽演出もすごい。プリミティブな祭りの「合唱」と対を成すように、理性の集成であるクラシックがピンポイントで奏でられる。ヴィヴァルディの協奏曲「四季」のうち最も激情的な「夏」が、ここぞとばかりに襲いかかる終章の痛切は圧巻。
映画的快楽を物語に緻密に織り込むセリーヌ・シアマの才気に酔う。
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