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[コメント] 別れる決心(2022/韓国)

どんどん目まぐるしく新たな出来事が出現する展開で、普通の映画の何倍も情報量があるように感じる。
ゑぎ

 示された道具立てやキーワードの多くが伏線として回収されるワケでもないので(そのこと自体、全然いいと思う)、引っ掛かり(ノイズと云ってもいい)が多く残るし、明らかに詰め込み過ぎだとも思うが、それが面白さに繋がるようサバかれているのが非凡だ。

 ちょっとどれぐらい目まぐるしいのか、私が引っ掛かているキーワードをネタバレにならない(と思える)範囲で列挙してみます。まず、断崖、落下、山、海、眼球、蠅、目薬、介護士、安楽死、毒薬(フェンタニル4錠)、グッモーニング(これ面白い!)、寺院、緑の服、ハンドクリーム、リップクリーム、錠菓(ミントタブレット)、手の柔らかさ、手のマメ、スマートウォッチ、スマホの翻訳アプリ、マーラーの5番、霧(主題歌も「霧」)、スニーカーと革靴、スッポン、魚の目、原発、ヘッドライト、遺灰などなど、もっとあると思う。あるいは、終盤になって「好きなのは、体が真っ直ぐなところ」なんて科白で引っ掛かりを残す。

 また、カメラワークや画面造型、カッティングの目まぐるしさも半端じゃない。例えばレントゲン写真から生身の人物へのマッチカットだとかは、この監督らしい場面転換だと思うが、本作で顕著なのは、フラッシュバックだけでなく、フラッシュフォワードも多い点で、私は頭の体操をしているような感覚になった。他にも、主人公の刑事ヘジュン−パク・ヘイルが、双眼鏡で容疑者ソレ−タン・ウェイを監視している最中に、同じ部屋の中にいて窃視しているような画面イメージを提示したり、犯行時のフラッシュバックの中に、刑事ヘジュンがその場にいるかのような、時空を超越融合させるような場面を繰り出してみたり。この演出も本作の知的な面白さを高めているだろう。あと、死体の眼球の奥にカメラを置いたような画面、同じようにスマホのディスプレイの中から撮ったような画面造型も目を引く。

 作劇的には容疑者でヒロインのソレが、元々中国人で、韓国語がよく分からない、という設定が効いている。「崩壊」という韓国語は、中国語(上海語?)の「愛している」に聞こえるのか?中盤で13ケ月後に時間が飛んで、彼女の雰囲気(というか環境)が、ガラリと変わるのも、本作の怒涛の展開感を強化しているが、1年以上の空白期間を置いても、彼女の別れる決心はつかなかったのであり、私は、結局ラストまで刑事ヘジュンの容疑者であり続けている、という意味で、別れる決心はついていない、と云えるのではないかとも感じられる。目まぐるしい展開および画面造型で、ノイズも多いと思いながらも、とても切ない余韻を残す映画だと思う。

(評価:★3)

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