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[コメント] 福田村事件(2023/日)

監督が常々言っている「集団化」による副作用への警鐘・「真実」は多面的で重層的である。この100年前の事件は悲しいかなそれらを分かりやすく伝える為にうってつけの題材となった。
クワドラAS

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







中盤までは狭い村社会の痴話喧嘩や鬱屈した軍人魂に翻弄される「この先の予感」を丹念に描き、また被差別部落出身の薬売り一行の「生きてく為にはナンチャラカンチャラ でもってこれから生まれる子供には望って名前を、、、」とこれまた「この先の予感」というか死亡フラグおっ立て。でもこの一行、オレは好きだな。なんか、皆考えバラバラのようでいてそうではないという堅牢さ。親方のトップダウンで統制されてるように見えて、皆の「ここは損して得取れだ」の意見ですぐさま撤収する潔さ。こういう集団が理想なのではないかと、監督が意識したかどうかは分からないが、オレはいいなと思った。

その一行が、朝鮮人であるか否かの一触即発シーケンスは役者陣の熱演も相まってなかなかの迫真性、ここがオレ的にはクライマックスだった。「声をあげる事」の大切さ・重要性が濃縮された場面だった。 そして「日本人を殺すことになってしまうんだぞ!」にすかさず「朝鮮人なら殺していいのか!」の畳み掛けも重い一言だ。

人は権力によって撒かれた情報としての「恐怖」により行動を左右される。これは100年前も今も変わらない。 更にそこへ自尊心をくすぐられ、おじいちゃんおばあちゃんの為に「思いやりワ○○○を」・風評被害なくす為に「○○水の可能性を否定して処理水と呼んで、、、食べて応援!」

これだけ情報が取れる今において、国民の間で、射つか射たないか・食べるか食べないか、、、それは間違いだ〜!な正に権力側が高笑いな分断統治。向かう矛先が違うんだ。

でもね、皆もう気づいてきてると思う。本作はそれを更に後押しする。社会集団に属する事は生きてく上で免れないが、そこで個を滅して埋没することは全体主義の到来を意味する。

本作に対し欲を言えば、登場人物達は事の顛末に皆放心状態だったが、ラスト、そこからが勝負なんだと、何か監督の希望の一矢となる描写が欲しかったとも思う(新聞記者の一言があったがやや弱かった)。でも時代考証・ロケ地の選定も含め力作の4点。

あと、田中麗奈夫婦のお風呂のシーン、なんか良かった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)寒山拾得[*] おーい粗茶[*] jollyjoker[*] けにろん[*] ぽんしゅう[*] 死ぬまでシネマ[*]

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