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[コメント] 会社物語 MEMORIES OF YOU(1988/日)

昭和という一つの時代の終わり。今観るといろいろグッときて泣きそうになる。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







公開当時リアルタイムで観た大学生の私にはこの映画の良さは全然わかりませんでしたが、当時のハナ肇の年齢に近づいた今観るとグッときます。いろいろグッときます。

なに、このOLたち?木野花、あめくみちこ、小川菜摘、広岡由里子……みんな「今だから」知ってる顔。若い男との結婚話が持ち上がる専務だかの娘は余貴美子だし、伊東四朗の秘書(愛人風)は筒井真理子でしょ?一瞬でもすぐ分かった(でも羽田美智子は気付かなかったんだよな)。

愛人風秘書にタバコを止められるシーンで言うと、「禁煙パイポ」のCMって市川準なんですよね、「私はコレで会社をやめました」ってやつ。あと伊東四朗の「ヤクルト・タフマン」のCMとか。「エバラ焼肉のたれ」も市川準のCM。ハナ肇が河原BBQで言うでしょ?「タレ取ってくれ」って。こういうのも、今になるとグッとくるんだけど、何と言っても一番グッとくるのは、上京したての俺が見知った当時の東京の姿。こんなにもこの時代の東京の姿を切り取った映画を観たことがない。もう六本木の象徴アマンドは無いんだよ!

結果として「昭和」の終わりを切り取った映画となりましたが、あくまで結果。公開時に昭和天皇が体調不良で世の中自粛ムードだったことは事実だけど、まさか1ヶ月少し先に昭和が終わるとは思っていなかったからね。むしろバブル期の「異常性」と「時代の変化」の映画という見方もできると思います。

実は私、本作と森田芳光『そろばんずく』は、「バブル期の会社」という同じテーマを全然違うアプローチから描いた二大傑作だと思うんです。ん?『そろばんずく』が傑作かどうかって話には耳を貸しません。

厳密には、森田君はこれから始まる(行き過ぎた)好景気を予期し(バブル景気は1986年12月からと言われ、『そろばんずく』は4ヶ月前の同年8月に公開されている)、逆に市川準はある種の終末観を漂わせて、91年2月に終焉する(行き過ぎた)好景気の行く末を予感させます。やっぱり、あの時期は異常だったんですよね。レストランで「まだお父さんのが来てないだろ!」と子供に食事を「おあずけ」させる親が描かれます。森田君はこの手の「異常性」を強調しますが、このレストランシーンやイッセー尾形のシーンを見る限り、おそらく市川準も「時代の異常性」に気付いていたのだろうと思います。

ですが、彼は「時代の変化」という捉え方をしているようにも見えます。例えば、部下のOLのお見合い。60-70年代の映画なら、ここで結婚話が決まっていたでしょう。小津的な着地だって悪くなかったはずです。

そして、酔った植木等が「今の日本は俺たちが作ったんだぞー」と叫ぶシーン(当時テレビCMで何度も流された)も時代の変化の象徴的な場面です。この年齢の先輩方(植木等61歳、ハナ肇58歳)が高度経済成長期を牽引したのは万人の認めるところでしたし、クレージーキャッツが日本の芸能界を牽引してきたことも周知の事実でした。ところがこの「異常な時代」は「♪ サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ(by「ドント節」)」から「24時間戦えますか」へ変化する時代でもあったのです。

この映画は、ハナ肇とクレージーキャッツが元々ジャズバンドだったことを我々に知らしめると同時に、彼らがコミックバンドとして牽引した「昭和」という一つの時代の終わりとサラリーマンの定年退職を重ね合わせた映画なのです。そして、ジャズだジャズだと言いながら、酔ったら皆で三橋達也を歌っちゃう。それが昭和だったんですよ。達者でな。

(2023.05.07 北千住シネマブルースタジオにて再鑑賞)

(評価:★4)

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