[コメント] 異人たちとの夏(1988/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この映画の中核は、主人公が迷い込んだ、死んだはずの両親と過ごす時間に凝縮されている、と思いました。
かつて、どこにでもあったような家族の日常が、実に生き生きと描かれています。秋吉久美子と片岡鶴太郎のふたりは、微塵も不自然さを感じさせずに、実に息の合った演技を見せてくれます。特に秋吉久美子の陽気さ、時折見せる艶やかさには参りました。
両親と再び水入らずで過ごすわずかな時間。この部分を見ているだけでも、この映画は見る価値があると断言できますし、見ている途中までは、風間杜夫の演技が少々ぎこちないことを除けば、これは、傑作だなと半ば確信していました。
が、しかし…。
名取裕子がヒロインとして出てくる現実の場面に戻るたびに、あの郷愁の良さが、その都度、阻害されてしまったのは、大いに残念でした。 いや、むしろ出だしは、非常にいい展開だったんです。名取裕子演じるヒロインが突然、主人公の部屋をシャンパンもって訪れて、かなり強引に押しかけながらも、初々しく話しかける場面など、実にいい。これからのロマンスの展開を予感させ、個人的にはググッ…と引き込まれたんです。
でも、でも…。
途中から、あっけなく男と女の関係になって、名取裕子の存在感もだんだん薄れて、なんかこう、最初の魅力が感じられなくなってしまったのは残念。それはひとつの理由として、おそらく、ふたりの会話が、ドラマチック過ぎて、臭い台詞の連続だったからかもしれません。いかにも演技しているという感じで、見ているこっちがハラハラし通しでした。 まあでも、そこまではまだ許せました。目をつぶれました。うん…。両親との場面が最高に良かったから。
結末近くには、実は彼女は自殺していたことが判明し、それは、それでびっくりしたし、そういうことだったのかと納得も出来ました。
しかし…しかし、です!
あのかなり大仰なホラーへと展開していく手法には茫然となりました。何だか急にああいった展開になるものだから、今までの良いイメージがぶち壊されて、「あちゃー」と頭を抱えたくなるのと同時に、内心笑ってしまいました。なぜあそこまでする必要があるのか…。「こわーっ」と思いましたが、そんなぞっとさせなくてもいいのに、と。もっと他の見せ方をしてほしかったな、と。 それが唯一の不満です。もったいない。なんで?と個人的には感じました。
しかし、あの両親との、甘酸っぱいような、哀しみを含んだような、郷愁。過ぎてから、失ってから初めて何物にも変えがたい大切な日々だったということに気づく愚かさ。 人間の奥深い心の部分をチクチクと刺激してくれる映画であることは、間違いありません。
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