[コメント] ロックよ、静かに流れよ(1988/日)
想い出の映画である。
1988年。イラン・イラク戦争が停戦し、青函トンネルが開業し、千代の富士の連勝が53でストップし、「キープする」が流行語になり、大半の知識人がベルリンの壁崩壊が翌年に迫っていることなど予測だにしていなかったこの年、初めての彼女ができた。当時チュウボウである。
付き合い始めて1ヶ月ほどし、一緒に歩いていても右手と右足が交互に出るようになった頃、マジック・ジョンソンファンの私と前田耕陽ファンの彼女は、お互いの意見を尊重し、週末のデートでこの映画を観に行くことになった。
当時私はキスがしたかった。とてもしたかった。そのため、前の晩、そこに辿りつくまでの綿密な計画書を作成した。『タクシー・ドライバー』ばりに鏡の間でシミュレーションを繰り返した。妹に見られたが気にしなかった。1カット1カットが頭の中で完璧に再現できるようにまでなった。
当日、映画に涙した彼女を見て、これはいけると確信した。『ロッキー』のテーマソングが頭に流れた。帰り道、わざとらしさを隠す術も知らず『ターミネーター』ばりの不自然な喋りで彼女を公園に導いた。
そこからはほとんど計画書のカット割り通りにはいかなかったが、「現場の雰囲気を大切に」と心に決め、ただただその時を待った。と感じたのだが、実際のところは全く待てなかったらしい。あまりの急な動きに慄いた彼女に力が入り、私は上唇から流血した。血の味がした。すごくした。彼女はハンカチを貸してくれた。
その後私は引っ越し、それ以降、彼女とは会っていない。
でも彼女は毎年年賀状をくれる。今は彼女も二児の母。毎年正月に年賀状で幸せそうな彼女と家族の写真を見る。その度にこの映画を思い出し、上唇に触れ、ロックを静かに流す。
映画は、光GENJIの友情出演が印象的であった。
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