[コメント] 砂の女(1964/日)
完成度が高く刺激的で見ごたえのある映像だが、修辞を凝らして思いもよらないイメージを作り上げる安部公房の文章を、割合ふつうになぞっているだけのような気もする。それでも充分納得の出来栄え。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭の砂の粒子のどアップから始まり、流砂の描写、髪の毛や首筋にはりつく粒、すり鉢の底に建つバラック、夜の部落など、ハイキーな画調を中心としたモノクロ映像は、写真集を見ているように美しく、まずはここまでやってくれていて嬉しくなってきます。
ところで、「マズローの欲求5段階説」というのがあって、それによると、人間の欲求は「生理的欲求(食物・排泄・睡眠)」から始まって、それが満たされると「安全(安定)の欲求」を持つようになり、次に「社会的欲求(集団や仲間の一員になる)」がおこり、さらに「承認欲求(評価されたい)」になり、最終的に望むものは「自己実現」であるというふうに、ある層の欲求が満たされると、上段の層の欲求が起こるという考え方があるんですが、この説によれば、男は終盤、自らの発見によって「社会的欲求」もしくは「承認欲求」の可能性を感じたとき、初めてそこで「生きていける」という希望(あるいは妥協点かも)を見出すのです。「社会的欲求」より上位の欲求が保証されるためには、食べ物や住居というように物そのもののような実体がない分、何らかの客観的な「証明」が必要となってくるのだともいえます。男は砂の世界に迷い込み、証明によって存在が成り立つ世界から解放されたかのように見えて、結局のところ「証明」を頼りにして生きていこうとする姿勢は変わらなかった。それを必要とするような欲求のレベルでないと生きられなかったのでしょう。
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