コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 恋愛小説家(1997/米)

足の裏の感触。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







洗面所に山と積み上げられた石鹸は少々ヤリ過ぎかなぁと思ったりもするけど、ベーコンの入ったビニールで犬を釣るエピソードも好きだし、気付くとドアにカギをかけ忘れているシーンも好き。緊急用のラブソングをあっさり拒絶されるシーンの気まずい笑い、それに関連して愛の告白の代わりこれ見よがしに口笛を吹くシーン、「理想の恋人なんていないのよ」と少々おせっかい気味に首を突っ込むヘレン・ハントのおかあさんの可愛らしさ・・・等、等、など。鑑賞後に思い返すと、そういった細かいエピソードが、意外にも次から次へと頭を過ぎる。かなり脚本が丁寧に作られている証拠だと。

道路のヒビを踏むなんて、他人から見たらいとも容易いことかもしれないけど、最初の未知への一歩はやっぱり難しい。いままでそうやって歳を重ねてきたし性癖として染み付いているのだから、なおさら見た目よりもはるかに難しい。人によっては簡単に心の内を言葉にできても、もって回った表現の方がはるかに簡単な人だっている。そんな風に主人公の成長振りと潔癖症の性癖の一つを重ね合わせながら描写していく様は、とても巧いと思う。そして何より彼の「変わりたい」と思う気持ちが切実に伝わってくるからこそ、こちらとしても最後まで見守ってやらねば、なんて思うワケで。

ヘレン・ハント演じるキャロルのキャラも魅力的。子供にかまけて所帯じみてしまった彼女が、いざ子供の手がかからなくなって何をすれば良いのか途方に暮れて泣き出すシーンが印象的(ここでもさりげない母親の心遣いが粋)。「世界一の女性だと僕だけが知っている」というメルビンの言葉が、どれだけ一人の女としての自信が揺らいでしまった彼女の心に沁みたか。最初は不釣合いといえばいいか、まるで親子位中身に差があるこのカップルが、ちょっとだけ目の高さが近づいたような気がして、見ているこちらまでうれしくなってしまった。

さらにそこにもう一人サイモン。破産で今まで友達だと思ってた人間がいざという時に心の支えにさえなってくれない事を知り、その反面毛嫌いしていた隣人メルビンを通して彼の本当の内面を知り心の支えとなっていったことを考えると、彼は人を見る目が養われていったような気がする。彼の「愛してる」には、感謝という気持ちだけは収まりきれない大切な人への気持ちが伝わってくる(ママには笑ったが)。ただ彼のゲイとしてのキャラがそれほど明確に描かれてなかったのが、少々残念な気もするが。

そしてラストシーン。メルビンがレンガの道に足を踏み入れている姿を遠くから映し出す。でもよく見るとまだ片足だけ(ここが秀逸)。そんな簡単に変われるもんじゃないし、これからもケンカは絶えないに違いない。でも自分で踏み入れたことが何より大切だし、きっと少しづつでも変わっていけるに違いない。ちょっぴりくすぐったい足の裏の感触を味わいつつ、そんな予感で胸を膨らませていたのかもしれない・・・。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (8 人)ぽんしゅう[*] 浅草12階の幽霊 makoto7774 トシ[*] パッチ[*] mize[*] フランチェスコ[*] 緑雨[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。