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[コメント] クーリンチェ少年殺人事件(1991/台湾)

Are You Lonesome Tonight 何と切ない。誰もが感じるであろう類稀なる光の映画。全く緊張感途切れることなく見る。それは全編に亘ってフィルムに殺意が定着したかのような緊張感なのだ。
ゑぎ

 パチン、という印象的な音とともに、電球が灯って映画はスタートする。守衛室の電球は主人公の小四・張震によって、打ち砕かれる。彼は目が悪い。奪った大きな懐中電灯(マグライト)を持ち歩き、自宅の押し入れ(小四の寝床)では日記を書く際の光源となる。電力事情が悪いのだろう、特に敵対する山東のアジト(ビリヤード台がある)では停電のシーンが度々反復され、蝋燭の光が重要な道具立てになる。台風で土砂降りの夜の殴り込みシーン。停電の闇の中で、刀が閃く。こゝも、とびっきりの光のシーンだ。光と闇から離れても、軍事演習場近くの原っぱのシーンや、学校内で、吹奏楽部の練習場所を背景に告白するシーン周り等(これらは、ほんの一例だが)、こういった昼間のカットの光も絶品だ。そしてヒロインは「小明」という、光に関わる名前を持つ。また小明と同じ「私を変えようと思っているのね」云々の台詞を云う小翠も、「翠」(みどり)という色彩に関わる名前を持っている。

 今でも、主人公・小四のことを考えると胸締め付けられる切ない感情が湧き起こるのだが、それはヒロイン・小明のファム・ファタールとしてのキャラクター造型も照射された小四、つまり二人一体に対しての思い入れでもある。或いは、警察署で「あいつだけが友達だったのに」と泣く小馬の存在にも思いを馳せてしまう。ただ、小四の仲間の中では、小柄だが最も男気のある小猫王が出色の存在だろう。小公園というレストランで、フランキー・アヴァロン「Why」が歌われる中、彼が女性パートで入ってくるのには吃驚しながらも、思わず笑ってしまったのだが、他に「Angel Baby」を歌う。このキャラクターがいるといないでは、この映画の豊かさは大違いだろう。

#備忘

・ヒロイン小明の、ほぼ登場シーンと言っていいカットが、保健室で手当をしてもらっているカットで、スカートがめくれて太腿が露わになっている。いかにも妖婦役らしい登場シーンだ。

・小猫王の部屋にはプレスリーのポスターがある。プレスリーの大ファンなのだ。「Are You Lonesome Tonight」の文字起こしと翻訳を小四の姉に頼み、オープンリールのテープに吹き込む。これが愉快なエピローグを導く。

・英語タイトルの『A BRIGHTER SUMMER DAY』はこのプレスリーの歌の歌詞から。

・映画を見るシーンが2回。いずれもスクリーンは映らず、音声だけなのだが、2回目はジョン・ウェインの声とはっきり分かる。『リオ・ブラボー』だ。

・保健室で小四が医者の帽子をかぶり、ガンマンの真似をする。

・映画館の前での小翠とのシーン。貼られているポスターは『荒馬と女』か。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)KEI けにろん[*] 袋のうさぎ ぽんしゅう[*]

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