[コメント] ワンダフルライフ(1998/日)
開始直後からすぐに涙腺がゆるむ、ちょっとずるいけれど、 ストーリー展開も二転三転させる気の効き方。 泣きつ笑いつ、見終えてもあれこれ余韻に浸る、文句無しの映画だった。
物語は、死者が死亡後1週間、自分が残したい記憶を決めさせられる、 古びた学校のような施設でのやりとり。 希望した以外の記憶はあの世に持って行けない。 永遠の「一番幸せだった瞬間」だけを死者達は探し求める。 選択した記憶は、再現フィルムとしてあの世に持って行くため、 その「再現フィルム」撮影の際、 自分が希望したシーンを「追体験」することにもなる。
ファンタジーな設定だけど、映像はシンプルである。 テレビドキュメンタリー出身の監督による手法は、 ほぼ「ドキュメンタリー」を模した映像で紡がれる。 ハリウッド映画のように派手な照明もなく、 ニュース映像のようなジャンプカットの編集、 おまけに、脚本も、役者のアドリブが多用されている。 このように、「疑似ドキュメンタリー」な手法によって、 突拍子も無い設定なのに、リアルなドキュメントを見ているような錯覚にとらわれ、 いつしか、物語に引き込まれて行くのである。
「死」というのは、人の物語の「終止符」である。 「終わり」で以後は「無い」からこそ、人はその訪れを恐れ悲しむ。 たいていの物語は「死」のインパクトのみに効果を持たせたり、 登場人物の「死」によって話も終わったりするのだが、 この映画は、「死」から始まり「生を問う」のである。 、映画の中では、「一番幸せだった記憶」を選択することは、 「死を受け入れる」ことでもある。 だから、人々は、「あるがままの生きた証」をみつけた時、 ようやく「あの世」へ行くことができる。 それを見ている観客は、 「今だと、どの思い出が幸せなんだろう」なんて見ながら考えてしまう。
そしてこの映画が素晴らしいのは、死者達が「再現フィルム」を作る場面。 本人の思い出をもとに、「施設」のスタッフがセットを組み、 本物同様の撮影をするんだけど、そのシーンの描写がとても良い。 死んだ本人が主演&監督を担当するんだけど、 スタッフに指示を与える間、とても楽しそうなのである。 自分の特別に好きなシーンを自分主演で撮影する、 これ以上楽しい体験は他には無いだろうと、 実際に素人映画を作ってた私は思う。 ただ、思い出だけを持っていくなら、 映画中で登場する、「生前の本人のビデオ映像」だけを持って行けばいいのに、 なぜ、わざわざもう一度、「フィルム」を撮影する必要があるのか。 本来、「自分が主役の物語」とは、「人生」そのものなのである。 主人公たる自分はなかなか気づかないんだけど、 撮影という作業をすることで、初めてそれを確認することができる。 そして、撮影は、一人ではできない。 多数の人々の助けがあって初めて可能なのである。 これもまた「人生」と同じである。
自分の人生を振り返り、ようやくみつけた「自分の一番幸せな思い出」。 その「一番幸せな世界の中で自分が主人公な映画」だけを持って、 あの世に旅立って行くのだ。 こんな幸せな「死」はあるだろうか。
「生と死」というテーマとともに、 映画を作る側からの「映画の意味」も探ろうとしている。 哲学的なテーマでもあり、つい、重くなったりゲージツ的になりがちだけど、 この作品は、重くならず、軽いテンポで淡々と話が進む。 そこがむやみに「カッコ良い」。
こういう映画ばっかりだったら、 私も映画を撮ろうなんて思わなかったろう(笑)。 そんな「圧倒的な上手さ」を感じる作品である。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (6 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。