[コメント] 鏡(1975/露)
映画を見終った人むけのレビューです。
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多分にタルコフスキーの自伝的要素を持った作品。他の監督作品同様、物語は静かに、美しく仕上がっている。淡々と演じられるカラーとモノクロの画面描写。絶妙の配置を魅せる画面構成。流石巨匠と思わせる、美しく、そして重厚な作品。
この物語は三つのパートに分かれる。主人公の子供時代(カラー)、現代の主人公の生活(モノクロ)、そして出版局に勤めていた主人公の母の物語(モノクロ)。これらが唐突に切り替わるため、話の流れが分かりづらく、更に物語そのものが淡々と流れるため、眠気を誘う。私だって初見は全く訳が分からなかった(途中眠気に負けた程)。その後この作品を紹介してくれた知り合いとメールを通じて話したり、この作品について書いた評論を読んだりしている内、やっと話が何となく分かり、先日DVDを購入してやっと話が分かった。
主人公の過去と現在とが交互に流れる手いるのに、何故いきなり母の話が入るのかとつらつら考えてみると、これは面白い効果があることが分かった。このパートはモノクロで、出版局に勤めていた主人公の母の姿が描かれるが、これは現代の主人公の生活では分からないソ連の官僚主義的な体制が良く描かれているし(まさに『1984年』の物語そのもの)、どれほどそれが暗い時代だったか、そして母のやや腺病質的な行動を見せることによって、現在の主人公の心が何故母から離れているかを効果的に見せている。そして、このパートによって、主人公と関係のない(少なくとも関心のない)物語がモノクロで描かれることが暗示されているようだ。だから現代の主人公を描いているパートがモノクロと言うことは、彼が現在の生活そのものに関心を失っていることを意味しているのでは無かろうか?
現在を生きるという点において殆ど関心のない主人公にとって本当にリアルなのは、子供の頃に体験した体験。確かに自分は生きていた。と言う証の中にこそあったのかも知れない。
故に過去の想い出は美しく、ますますリアルに描かれている。過去の想い出はそのままその時代が示していた未来のソ連そのものを示していたのかも知れない。
「鏡の世界」や「風」そして「火事」。これらは当時の未来、つまり今主人公が生きている現代をこそ映す鏡だったのかもしれない。幻想的に見えつつ、それらが「不安」を示すキー・ワードだったように思えてならない。過去の見地から、様々なキー・ワードを用い監督は今の身の回り、ひいては国の問題をさらけ出そうとした試みのように思える。そう言う意味で、監督は主人公に託して自分の身の回りを描いているだけでなく、祖国の行く末を本気で思っていたのかも知れない。まさしくモノトーンの時代のソ連に生きていた監督だけがなしえた作品ではなかったか?
それにしても、皆さんのコメントを読んで、非常に感心したため、最初はもっと抒情的にレビューしようと思ったのに、何で私がレビューするとこんな分析みたいなのになってしまうのだろう?これほど詩的な美しさに満ちた物語だって言うのに…我ながら不思議なもんだ(笑)
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