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[コメント] 救命士(1999/米)

BGMはヴァン・モリソン、真っ赤なサイレンを点けながら「病んだ街」ニューヨークを疾走する真っ白い救急車。顔面真っ青の二コラス・ケイジは呟く、「シラフじゃやっていられない」と。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







マーティン・スコセッシポール・シュレイダーコンビということで、当然『タクシードライバー』と比べてしまいたくなるのが、映画ファン(というか『タクシードライバー』ファン)の性だ。

ゴキブリが耳に入って心停止した女、ズボンに火をつけた男、ガキを孕んでるのに体を売りつづける娼婦、悪魔にとり憑かれていると訴える男、砂漠に置いてけぼりにされたと水を飲みつづける男・・・。『救命士』にはそんな「病んだ人」しか登場しない。誤解を恐れずに言えば、『タクシードライバー』のデ・ニーロのようなイカれた奴らばっかなのだ、この映画の登場人物は。だから、もしこの映画に僕たちが何も感じなくなってしまってるとすれば、それはデ・ニーロのような存在がもう「特異な存在」じゃなく、ごくあたり前の存在、単なる前提になってしまったからのように思う。そう、こんな世の中「シラフじゃやっていられない」。

そんな中でニコラス・ケイジだけが唯一「まとも」だった。彼は言う、「人を救えば自分も救われるんじゃないか」。けれど、何ヶ月も人を救うことができない時間が長くつづき、彼自身も病んでいく、イカれていくのだ。腐った世の中を良くするつもりが、自分自身が腐っていく『救命士』。

もはや「まとも」であることが重要な価値観になり得る、そんな時代に僕たちは生きている―この映画を見ながら、そんなことを考えた。

(評価:★4)

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