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[コメント] 独立愚連隊(1959/日)

異色戦争物語?違うな。これも正しい戦争映画の作り方の一つだ!(久々に徹底的に書いてやりましたよ。レビューは長いです)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 岡本喜八監督は私の大好きな監督だが、人間性の恐ろしさ、暗黒面にスポットを当てて作られる人物描写がとにかく見事。近年になってから笑える作品も多いのだが、それも何か後ろめたい笑いになってしまうのもこの監督の特徴だ。私にとっては日本人監督の中では押井守と並ぶ高得点を与えている監督でもある。

 しかもこの『独立愚連隊』及び続編の『独立愚連隊西へ』の2作は監督の最高傑作の評も高く、観るのを大変楽しみにしていた。

 それでやっと近くのレンタルビデオ店に新入荷したのを幸い、早速レンタル。

 …予想を超えていた。

 面白い!と言う言葉で言うのも陳腐だった。正直かなり強い衝撃を与えてくれた。

 前々から私はまだ日本映画界は第2次世界大戦というものを消化しきってないと思っていた。大概主眼が“戦争はいけない”と悲観的に取るか、あるいは開き直って“こういう事もあったんだ”という事ばかりが目的となる。これは立派な目的には違いない。ただ、それらに共通してある、一種の偽善的な部分がどうしても反発する。“戦争は悲惨だ”という想いが根底にあるのは当然としても、そればかりが前面に出てしまい、結果どんなドラマを盛り込んでもそちらの方が中途半端になってしまう。それに、戦争に笑いを入れてはいけないという不文律があるのか、真面目な内容に偏る。娯楽で良いはずの作品が何を撮っても社会派作品になってしまう。

 …そりゃ、日本の戦争映画でもその辺を越えてるのもいくつかはある。その代表はやっぱり同じく岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』だったわけだが…

 しかし、これはのっけからやってくれた。

 冒頭の部分で娼館がまず出てくる。そこにいる女性の明るい顔。

 これだけで分かった。こいつは間違いなく傑作だ。他の誰がなんと言おうと、今、私は傑作を観ようとしている。と慌てて座り直す。

 戦争映画で、しかも一番最初に笑いを持ってくるとは。

 そうだよ。戦争を扱ったとしても、笑って良いんだ。そんな当たり前のことを忘れていた自分が恥ずかしい。そしてなんと戦争に呪縛されていたのか、と自分自身に気づかされた。

 勿論だからといって、本作は戦争を肯定してるわけではないし、単なる状況として用いてるだけでもない。戦争は悲惨なものであると同時に、もっと大切なこと。戦争とは馬鹿馬鹿しいものである。と言う批判がこめられるんじゃないかな?そんな当たり前のことを当たり前に言おうとする。そこが一番面白かったんだろうと思う。

 冒頭僅か10分ほどで完全に意識を持って行かれた。こりゃ作品観ながら考えるなんて勿体ない。全て全身で受け入れてやる!

 観賞後、惚けて脱力。やられた!ここまでやってくれるとは岡本喜八、やっぱりただもんじゃねえ。

 観賞後、しばらく経って頭の中でバファリングが終わってから…

 この作品には日本の戦争映画では撮らなかった(あるいは時代が下って撮れなくなった)いくつもの要素が詰め込まれている。

 冒頭の部分での女性の明るさだって、そこにいるのは日本人ばかりでない。近年になっておこったいわゆる従軍慰安婦問題により、彼女たちは笑ってはいけない存在になったのだが、実際はどうなんだろう?少なくともあそこにはカタコトの日本語で“夢”を語る人がいたじゃないか。彼女たちも又、戦っている。その戦いの中での戦友意識やそこだからこそ出てくる喜びだってあったはずじゃないか?

 それとやっぱり冒頭。いきなりの銃殺シーン…と思ったら、いきなり飛び起きて逃げていきやがるの。なんだこりゃ?大笑いしたよ。当たり前だ。これくらいの度胸とずるさがあってこそ本当にリアルってもんだ。これが重要なんだよな。あらら?これって上原美佐なの?道理で華があったよ。

 その後、頭に怪我を負った大尉(井伏鱒二の「遙拝隊長」を地でやってる隊長)…おい、三船敏郎かよ!こいつが真面目ぶった顔でこんな笑える役を演るなんて、なんという豪華さだ。

 戦場のど真ん中で娼婦のトミ(雪村いずみ)に追いかけられる大久保…最前線でこれとは、人間の業とはいかに深いものか…(笑)

 中盤になって出てくる独立愚連隊の面々も個性豊か。最前線で、殆ど「死んでこい」と言われているに同様にもかかわらず、そこにはやっぱり笑いがある。確かにそこには苦労はあった。しかしその苦労は悲惨ではない。自分の命を肴に酒を飲んでるような奴だっている。命を賭けてる戦場だからこそ、危うい笑いが出る。それは確かに軍紀違反。でも、最前線で命のやりとりしてる中だったら、やっぱりそれもありだろ?

 それで中盤の山と言える、縦型社会の軍隊による隠蔽工作…これは割合あっけなかったけど、これだけ明白な事実が目の前にあるのに、それを黙っている軍隊組織。この辺はテレビドラマなんかでは常套手段ではあるんだが、シチュエーションで見せてくれる。

 一応これで目的は果たした訳だが、物語はそこでは終わらない。

 独立愚連隊そのものの存在をかけた戦いがこの後で待っているのだ。

 このシチュエーションはとにかく燃える!

 あれだけ多数の敵兵に囲まれ、これならなんとか逃げ切れそうだ。と思った瞬間の、ほんの些細なミスから見つかってしまう。その瞬間の下で待つ面々が呆然とした表情から、「仕方ねえな」。って表情に変わって、最後に「やるか」となる。この表情の変化が又良いのよ。最後はどうせ死ぬしかないからとことんやってやる!とばかりに開き直った戦場風景。確かにそこにリアリティはないかも知れないけど、これだけ燃えるシチュエーションを演出してくれただけで充分。

 それでラストなのだが、ここではたと気付く。主人公大久保って、こんな戦場にありながら、これだけ女をとっかえひっかえ…(笑)。戦場を舞台にしながらヒロインが3人もいる戦争映画なんて他に例がないぞ。

 それと、もう一つ、私にとって嬉しかったことがある。他でもない押井守監督の『機動警察パトレイバー2 THE MOVIE』(1993)で後藤隊長が特車二課のことを「独立愚連隊」と称していた(正確に引用すると、元第2小隊の面々を送り出した後、荒川に向かって言った台詞「この期に及んでも正規の部隊を動かさず独立愚連隊同然の俺達に頼らなければならなかったのが決定打さ。まともな役人のすることじゃない」)事が、完全に理解できた。最前線にありながら「警視庁のお荷物」だとか、「無駄飯ぐらい」とか言われてる上に、そこにいる人間達は皆、他からたらい回し同然にこの隊に来たやつらばかり。なるほど。この映画から設定を取ったか!

 私にとっては、色々な意味で衝撃を受け、嬉しい作品だった。

(評価:★5)

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