あの風景を見た経験のある者などこの世に存在するはずがない。だけど、どういう訳だか私は知っている。あなたもそんな奇妙な感じを思いだしませんでしたか？

私的には幼い頃に連れて行かれた湘南の江ﾉ島の参道のような気もするし、迷子になって泣きながら父母を探した猥雑な浅草のロック座近辺のような気もする。

見る人によってその場所はもちろん違うのだが、私の周囲の者の感覚を一言でまとめると、泣いていたり怒られていたり迷子になっていたりと、幼い頃の不安な情緒まで一緒に引きずり出されてきたようだ。

とても妖しく、奇妙な風景。実際に見たものなのか、それとも夢の中でみたものなのか？私たちの記憶の中にある「不安」という要素を具現化するとああいった風景に辿り着くのだろうか？

老若男女を問わずに支持されたという「結果」を残した本作品。世代を超えた「既視感」というものがあったのなら、それこそ学者たちの格好の研究材料になる。もしかすると「日本人」というＤＮＡに何か得体の知れぬ、そして何か心地よい原体験でも潜んでいるのだろうか？などと考えは拡がる。

正直なところ、本作品のストーリーに関しての感慨はあまり無い。ただただ、素晴らしく奇妙な背景画の魅力にとり付かれてしまった。