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[コメント] 至福のとき(2001/中国)

あの子を探して』『初恋のきた道』と狡猾に商業性を狙った作品の後にこのような一味違った、しかし狡猾と云えば狡猾な映画を撮り上げてしまうのだからこの監督は面白い。この曖昧な突き放しも私には実に面白い。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 この映画は盲目の少女を演じるドン・ジェという女優の魅力に支えられていることは衆目の一致するところだと思うが、しかし細かな演出の妙味で実に見せてくれる。例えば公園に放置されたバス「至福旅館」がクレーンで撤去されるシーンの演出。このシーンのオフの音響効果の見事さ。多くのシーンで目が見えないという設定を最大限に活用し、観客の感情を計算高く揺さぶっていく。それは場面によってはもう少しヒロインを聡明に描いて欲しいと思わせる程だ。

 そして観客にこの映画は『街の灯』なのだ、と思わせておいてラストで非情にも梯子を外してしまう。黒澤明の『』にも似た結末。しかし、こゝでは見る者を暗黒に突き落とすのとは違って、もう少し複雑な感情を抱かせる。確かに交通事故に遭った社長は生死不明のまま結末も知らされず放りっぱなしとなるのだが、ラストカットは街を一人歩くドン・ジェのバストショットだ。観客は、ドン・ジェは苦難にあってもきっと力強く生きていくであろうことを知っている。そういう意味でこれは実に曖昧な突き放し。徹底的な冷厳さによる爽快感を味わえないとしても、これはこれで悪くない。映画でしか成し得ないであろうという意味においてラストカットは充分に映画的だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)disjunctive[*] ぽんしゅう[*] YO--CHAN[*] ペンクロフ[*]

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