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[コメント] 至福のとき(2001/中国)

意外やこれは驚異的傑作。ベタな「ええ話」で敷居を低くしてはいるが描く物語の志は高く、決してありふれた映画ではない。(レビューはラストに言及しています)
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少女の残したテープにより、彼女がおっさんの嘘に感づいていたことが明かされる。テープレコーダーを前に、おっさんがでっち上げた「父からの手紙」が読み上げられる。これは実に凄い場面だった。おっさんがホラ吹きであるということはもちろん、少女を騙す顛末のドタバタはすでに延々見せられている。「父からの手紙」が虚構なのは、イヤというほど説明されている。少女がウソを見抜いていたことも判明して、この映画でのおっさんのドタバタは全て無駄になってしまった。そしてまさにその時、もはやまったく意味のない嘘の残りカスである手紙が、少女のいないところで読み上げられる。

にもかかわらず、あの手紙には真実がある。本当の思いがこもっている。

これは100回嘘をついたあとでしか、1つの本当のことを言えないアホなおっさんの話だ。おっさんは嘘ばかりついている。少女が仕事をやめたいと言ったとき、仲間との相談で「死なれちゃかなわん。オレたちが警察に捕まるからな」などと言う。これだって明らかに本音ではない。そういう言いかたしかできない男なのだ。

そしてこの映画が本当に驚異的なのは、たとえその1つの本当のことが伝えられなかったとしても、おっさんの100の嘘には人を変える力があったと言いきっているところだ。何もできずに悲惨な生活に甘んじていたあの少女が、たった1人で歩きはじめる。その先にどんな苦難が待っているかは判らないけど、それでも自分の意志で幸せに向かって一歩を踏み出すこと。おっさんの身を削った嘘が、彼女にその力を与えていたということ。大切な言葉は届かずとも、人を思う気持ちがその人の勇気になりうること、空想の力が現実を変えうるということ。あれは、ハッピーエンド以外の何ものでもない。

そりゃあ、この終幕に砂糖菓子のような甘さはない。目が治るわけでも、お父さんに会えるわけでもない。この映画は幸せをつかんでめでたしめでたし、よかったよかったという映画ではなかった。しかし少女は自分の意志で歩きはじめた。最後に言葉はすれ違ってしまったけど、おっさんが身を削った甲斐はそれでも確かにあった。あのすれ違い、行き違いは、だからこそ描かれなければならなかった。観客は、少女が哀れだから泣くのではない。おっさんが親切だから感動するわけじゃない。ドタバタやってりゃ笑うわけでもないし、ドン・ジエの美しさに釣られて映画を観るのでもない。

あー、いや最後にオレもウソを書いてしまいました。正直、ドン・ジエ目当てで観ました。すみません。

(評価:★5)

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