コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] フリーダ(2002/米=カナダ)

激動の時代に生まれつつ、自分の内面をテーマにしたフリーダ。奔放で激しい身体に、誰も入り込めない神聖な静謐さを秘めたフリーダ。自分の欲望に忠実ながら、いつも苛立ってるフリーダ…一緒にいたらとても疲れそうだけど、だからこそ伝記になるんだな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







観て良かった。いや、「これを観ずして今年の映画を私は語れない」と言う出来!

 のっけから衝撃!

 な、なんなんだ?

 何だよ。このとんでもないカメラは?

 前半30分の殆どの時間、我を忘れたように画面に見入っていた。美しいのだ、画面が。あまりに美しすぎる。

 カメラが固定されている時の美しさも特筆ものだが、ましてこの流れるカメラ・ワーク。動いていながらきっちりと対象の配置がなされている。基本的に広角で撮影されてるのだが、その焦点と、それを取り巻く配置が絶妙。ここまでカメラを凄いと思ったのは、正直黒澤明か、タルコフスキーを観て以来だ。

 そりゃ確かにカメラ・ワークは嫌味すぎる。映画ってのは、カメラが前面に出る訳じゃなく、さり気なく技術を使うべきなんだろうけど、それでもその嫌味なカメラ・ワークに魅了された。本当にとんでもなかった(一例を挙げると、最初の方でフリーダが寝ころんだ状態で天井に鏡を置いて、自画像を描いてるシーンがあるんだが、最初に鏡の中のフリーダーにカメラの焦点が当てられ、それから舐めるように部屋の壁(というかベッドの枠)を映し出すシーンがある。これは上手く錯覚を利用しているので、最初の鏡の中の人物が本物のフリーダのように見えてしまう。その姿が突然途切れ、一見して訳の分からないものを舐めた後、ベッドにたどり着き、ここでようやく本物のフリーダの姿を映し出す。この瞬間に観客が真相が分かると言う構図になってる。カメラの特性をはっきり分かった上での遊びというか、演出なんだが、そう言った演出が随所になされている。もう一つ言うと、『キング・コング』のパクリシーンは面白かった。だって、そのまんまだもん)。

 画家の生涯を描くからって事もあるんだろうけど、美術センスも並じゃない。テイモア監督の美的センスがこれでもか!と言うほど詰まってる。とにかく綺麗で残酷で、疲れる美的センスしてる。

 30分で疲れ切って、涙まで出ていた。

 疲れたからと言って観るのを止めた訳じゃないが、もう最後まで魅了されっぱなし。今年入って観た映画で、最後まで時計見なかった作品はこれが最初。

 この二時間は私には幸せだったけど、同時に苦痛に満ちた時間だった。あまりに凄すぎるので目が離せない。それが頭を打ちのめす…映画を観ていることがこれほど幸せに思える時は滅多にない。しかし、その幸せってのは、私にとっては“衝撃”を伴うもの。当然それが続くと、精神的な苦痛を覚える…私はマゾか?

 で、褒めてばかりでなんだが、肝心なストーリーは、概ねあくまで伝記作品。って出来。激しすぎるカーロの生涯は、それ自体伝説のようなものだが、流れはストーリーの先がある程度まで読めてしまうんだよな。見所はストーリー部分よりも個々に切り出されたドラマ部分だ。と割り切って考えるのが正しいだろう。

 演出は最高だし、フリーダを演じるハエックの上手さ(私だったら絶対にオスカーはキッドマンじゃなくて彼女に上げてたよ)、脇を固める豪華な俳優人(ジェフリー=ラッシュのトロツキーははまりすぎ。他にもアントニオ=バンデラスエドワード=ノートンと、私が買ってる男優が次々…)と、見所は多い。

 不思議なのは、本作、アカデミーの撮影賞にかすりもしなかったんだが(ノミネートは主演女優賞、美術賞、メイクアップ賞、作曲賞、歌曲賞といっぱいあるのに)…私にとって“ツボにはまる”のとアカデミーはあまり相性が良くないらしいな。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)りかちゅ[*] リア[*] Linus[*] ナッシュ13[*] プロキオン14[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。