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[コメント] ひなぎく(1966/チェコスロバキア)

堕天使がくれた「おいしい」虹色世界、たっぷり毒入りスパイシー、昇天。
muffler&silencer[消音装置]

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







要するに姉妹は「トリックスター」なのではないだろうか。当時のチェコにおける社会状況を鑑みれば、例えば、フーコーの言うすべての狂気が隔離される「大いなる閉じ込め」時代、そうしたものへの反逆と見た。

トリックスターは、反社会的で背徳的、社会秩序を破壊する存在であると同時に、閉塞状態にある社会に風穴を開け、澱んだ空気を新鮮にし、新しい機知・知恵と力を授けるカタルシスな存在でもある。こうした両義的なトリックスターの存在は、人間を「資源」と見る、<合理的>な共産主義にしろ資本主義にしろ、現代社会においては寛容されるはずがないのだ。そう、例えば自転車で工場に向かう男たちが彼女たちの存在に気付かないように、黙殺されてしまう。

現実からプッカリ浮遊したような彼女たちの部屋は、まさにアジール(聖域、不可侵の場)なのだが、元気な二人には小さすぎて、その境界をはみ出してしまうのも当然。その存在を無視されてしまえば、その大胆不敵な行動がエスカレートするのもまた当然。やりたいことをやり尽くす、徹底的に自由奔放な彼女たちの「小さな狂気」の連続。そんなトリックスターな彼女たちの行く末、この結末を、我々はただ笑って「当然」と済ましていいものだろうか。

そこにこの映画が、当時の東欧社会の特殊性、そのコンテキストを超越した、普遍的なテーマを潜在的に持ち、90年代以降も多くの支持を集める要因ではなかろうか。勿論、その今でも色褪せない斬新な映像やセリフのお洒落加減、それだけでも十二分にエンターテイメントなのは言わずもがなではあるが。

さて、この映画は、メタファーに満ち溢れていて、その解釈を考えるだけでも楽しいのだが、特にラスト近くのシーンについて、秋田大学でロシア文学を専門とされておられる長谷川章教授が自身のウェブページで思わず膝を打つような評論をされているので、興味がある方は是非覗いて頂きたい。  [http://cube.ed.akita-u.ac.jp/staff/hasegawa/daisy.html]

*************************心に残るセリフ*************************

あらすじ参照

[8.5.01]

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)けにろん[*] tredair[*] 浅草12階の幽霊[*] moot ボイス母[*]

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