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[コメント] 南太平洋(1958/米)

現実と超現実と非現実の間に漂う不可思議時空がおそらく製作者の意図とは無縁に現出してしまっている。このバランス感覚の悪さ、というか、なさがこの映画の味・面白さとなっている。ゲテモノ食い的感動を楽しめる超大作。
ジェリー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







強烈な色使いは時に見事にはずれ時に見事に当たる。カラーフィルターの大胆な活用に見られるような、こうした通俗さをある程度の監督なら通常は絶対避けようとするはずだが、この監督ときたらあきれるほど大胆かつ安易にこの禁断の手段に手を出し、悪趣味すれすれのところで、それなりの色彩感覚を見せている。第1部の終わりの月夜のシーンはくらくらする美しさだ。そのほかにもフィルムに収まりきれないくらいの美しい風光がいともやすやすとつまらない場面に登場するこの落差感覚は、この映画でしか味わえない。

役者の不可思議さといったらない。ロッサノ・ブラッツィ は映画史上最高の好色顔。ジョン・カー は稀代のホモ顔。ミッツィ・ゲイナー の年齢不詳顔。この三幅対を見て誰が笑いをこらえられよう。

おそらくボラボラ島を舞台にしたと思われるこの南の島は、一点の曇りもないステレオタイプな桃源郷となっている。戦地に赴いた男たちは、戦地に赴いたはずにもかかわらずここで楽園的享楽に浸っており、最前線であるにもかかわらず兵士は女性と一緒に過ごし、歌ばかり歌っている。凡庸な夢が大々的に具象化されて、目の前にある。一人の男は死に、一人は生き残る。そのプロセスは実に安手のフェードアウトの闇の向こうで表現されている。編集の悪さでもなく、脚本の悪さでも演出の悪さでもなく、そのすべての悪さとそれが一挙に悪趣味を超えてゲテモノ的個性体に変貌する有様が面白い。ここまで広大無辺にうつろだと気持ちがいいくらいだ。

この映画,いい・悪いという次元だけでは論じられない、美醜を超えた細部を持っている。自分の体から取り出されたがん細胞を見ているようなそんな気のする映画である。

(評価:★3)

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