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[コメント] キサラギ(2007/日)

アイドル(偶像)を取り巻く5人の人物の物理的、そして心理的距離感が絶妙。秘密がひとつ明かされるたびに距離のバランスが崩れ、優越感と嫉妬の狭間で狼狽する者たちの滑稽さ。ネタバラシのタイミングと、5人の均衡と連帯のズレの描き方が抜群に上手い。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







うすうす観客が「そうか・・・」と感じ始めたとたん、絶妙のタイミングで伏線を巧みに活かしながら暴露される秘密。その暴露に納得しながらも右往左往する、これまた観客の期待にたがわぬ5人の言動の可笑しさ。ストーカー、近所の店員、芸能関係者、幼なじみの登場に、置いてきぼりを喰らった家元の焦りと無念さのなんと滑稽なこと。しかし、家元以外は、アイドルの知人であることにプラスして、「放棄者としての後ろめたさ」、「単なる偶然の地の利」、「ビジネスのための商品」、「別世界を生きる地方住まい」という、各人各様の物理的、心理的な距離を残していたところがミソですね。そこから始まる、家元の大逆転が無名で非力な「○○ファン」と呼ばれる人々に与える夢の心地よさ。練りこまれた脚本と展開演出の巧さで、最後まで安心して観ていられます。

でも、この「安心」感に本作の限界を感じたのも事実です。6人目の人物、すなわち観客である私と5人の人物たちとの距離の方は縮まることなく、終始映画の外からその右往左往ぶりを笑いながら眺めていただけです。彼らの輪の中に有無を言わさず観客を引きずり込むだけの、突き抜けた映画的パワーが残念ながら感じられなかったのです。これは『ラヂオの時間』を観たときの感想と同じです。おそらく三谷幸喜もそのことは承知していて、後の『THE 有頂天ホテル』では、建物という空間と登場人物の背景を使って映画的な広がりを出そうと試みていました。さらに言えば、私が期待する映画的突き抜けとは、手法はまったく異なりますが『嫌われ松子の一生』(中島哲也)の祝祭的空間と圧倒的スピードや『運命じゃない人』(内田けんじ)の巧みな時間軸のコントロールと意味深いセリフといた、映画ならではの力のことです。

この一幕もの映画に、そこまで期待するのは高望みだろうという声が聞こえてきそうです。でも、おそらくこの「安心」感の壁を本作の製作者たちも感じていたのだと思います。それを何とか打破したいと準備されたのが、宍戸錠によるエンディングなのではないでしょうか。ところが、このエンディングが実に中途半端で、笑える分けでも、不安をかき立てる分けでもなく意味不明。せっかく「安心」して席を立とうとした客の気分を逆なでしただけに終わっています。そのあたりに、みなさんの総反発の原因があるのではないかと思った次第であります。

(評価:★3)

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