十字架を背負って歩く途中、倒れたイエスの顔をヴェロニカが拭いた布とか（聖ヴェロニカの聖帛：血液でイエスの顔が浮かび上がったものとして有名）、滴るイエスの血を受けた聖杯や脇腹を突き刺して流血シャワー状態になったロンギヌス（突き刺した兵士さんの名前）の槍とか、イエスの遺体をくるんだ布（有名なのはトリノの聖骸布：イエスの全身が転写されたもの）とか、2004年後の今も聖遺物として存在してるものがいっぱい出てきたりするあたり、事の真偽は別として、まったく省略されてなくて感心した。

聖書に出てくる会話も全部そのまんま出てきて、細かい描写もほぼ一致していたし、ものすごく計算しつくされて再現された映像だと思う。

ちなみにイエスの血液型はAB型で、聖書の天候の描写を地質学的に判断すると、死亡時刻は西暦33年4月3日金曜日午後3時、復活時刻は4月5日午前4時らしい。

映画中に出てきたマグダラのマリア（モニカ・ベルッチ）が民衆に石を投げられてるシーンとか、「預言者エリヤの生まれ変わり」とか、ユダが裏切った理由が、ユダが経理係で経費をちょろまかしていたのをイエスに咎められて根に持ってたから、とか、それがヒトラーがユダヤ人を迫害した理由になったとか、映画でたまに出てくる「だからユダヤ人は金に汚いのよねー」ってジョークの起源だよ、とか一緒に見に行った友人に後で説明するのが大変だった。

作中に説明や前書きが描かれなさすぎで、非キリスト教徒（私も含む）にはさっぱり何が何だかわからない。 友人はまず冒頭から、「ていうか、何でイエスは処刑されなきゃなんないの？」というのが最大の疑問だったらしい。

とりあえず、この映画はイエスが本当に神の子なのかどうかとかいう宗教的議論を超えて「とにかく聖書に書いてあることは事実である」というのが大前提になっているのだ。 映画が観客の心に何かを提起させるものだとすれば、これは映画ではなくドキュメンタリーでさえもない。と思う。

ところで、当時は異端として迫害されていたイエスが今では歴史の基準となっているように、もしオウム真理教の麻原ショーコーとかが本当に超能力を持ってたり奇跡を起こしたりしたら（絶対ありえないだろうけど）数千年後の日本人は麻原の誕生日を祝ったり暦の基準にしたりするんだろうか。

今ではイエスは世界的に崇められてるけど、当時は「何だコイツ頭おかしいんじゃないの処刑されて当然」って世論が一般的だったことを考えると、宗教の恐ろしさを感じます。 絶対不変の科学的なものとかじゃなくて、一人の思想（ていうか妄想？）が世界の物事の基準になるっていうのがスゴイ。

イエスのムチ打ちとかの描写が凄惨すぎるのは確かだけど、あれは当時では普通のことだったし、聖書中の神の虐殺行為（私にはそう思えるぐらいの大量殺人です）に比べると随分と優しい。

日本の江戸時代なんかは動物虐待行為や何となく人殺しやるのは日常のことで、それを「ひどい」とか異常とか思う倫理自体存在しない時代があったんだからあまり他の国のことを言える立場じゃないのかもしれない。

でも今は江戸時代じゃないし、基準も価値観も違うんだからそういう問題じゃないですね、ハイ。やっぱりR15指定にするべきだと私も思う。 見てるだけで体が痛かった〜こりゃ敬虔なクリスチャンが見たら心臓にものすごいショックよ！

というわけで映画としては採点しようにもできないけど、キリスト教の授業で、 「はい、これが聖ヴェロニカですよー、顔の血を拭きましたね！これがあの有名な聖帛です！今これはローマのサン・ピエトロ大聖堂にロンギヌスの槍と一緒に展示されてます！さて、イエスと一緒に十字架を運んでいるのは誰でしょう？さっきの章に出てきたシモンですね！ハイ皆さん他にもあちこち有名な説話が隠れていますよー、皆さんはいくつわかるかな？しっかり見ておきましょうねアーメン！」 とか教授が説明しながら見る教材としてなら☆５。 これ以上のものはないと思う。教科書ばりの優等ビデオです。

ただ、イエスには聖遺物とかいろいろと神秘的な伝説が今でもあって、それが世の中に映画や番組を提供するネタになってることを考えると、確かにイエスは偉大だよ！と思う。 そんなわけで☆４。

補足：メル・ギブソンが「イエス役には絶対にジム・カヴィーゼルを」と言っていた理由は、ただ単にジムとイエスが激似だからなんじゃないのかと思う（よく知らないけど）。

＜参考＞トリノの聖骸布について（絶対ジムに似てるって！）

http://www.actv.ne.jp/~yappi/tanosii-sekaisi/01_sensi&kodai/01-19_seigaifu.html